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11、それでも世界は絶えず回り続けているし、繋がっているⅠ

***


その村では、他人の幸せを犠牲にした上で成り立つ因習が、その時まで息づいていた。


──朔月の晩に山の主へと贄を捧げる……そうすれば少しの間だけ富を得られる。


この犠牲となるのは殆どが年端も行かぬ子供達だった。


魔物のもたらす益にすがっていたくらいだから、口減らしの意味もあったのだろう。


その時々で人数はまちまち。


そんな子供達の中に、彼は居た。


その時、何があったか予想は出来る。

が、直接に見た訳では無いので詳しい正確なところは判らない。


男達が其所にたどり着いた時には、赤黒い血溜まりの中に子供が一人震えながら踞っていた。


辛うじて人だったと判るもの。

小さな手足の欠片。

抉り出された臓腑の塊。

千々に砕けた肉と骨。

そういったものが、辺りに四散している中で、ただただ震えていた。それが彼だった。


彼の前にはもう一つ。

他とは違った不気味な空気を放っている人ならざる巨大な生き物の骸が横たわっていた。


胴と頭を二つに切断されている。

それを実行したのは他ならぬ彼だろう。


彼は、血に濡れ、震えながらも一振りの剣を抱え込んでいた。


「これは……聖剣か……?」


「んー…それ以外ないと思うよ〜?」


「ならば浄化の力はどうした?魔物は斬られただけではないか」


「さあねぇ〜……使用者がまだ未熟だからじゃない?」


男達はそう言いながら震える子供を見やった。


子供の目は、どこか一点を見詰めるように開かれてはいるが、そこには何も映ってはいない。


「……壊れたか」


「いや、心を閉ざしてはいるけど……たぶん、大丈夫だ」


そうしないと自分を保てなかったんだろうな……と、言いながら男のうち一人が子供の頭をそっと撫でたが、子供はそれに無反応だった。


「こっちの力が及ばない魔物は恐いだろうけどさ、生け贄とか……こういうことする人間のほうがよっぽど怖いよおれは……」


「同感だな」


「自分も人間の癖に」


「とうにその定義からは外れている」


自信満々な顔で言い切った相手に苦笑を返してから男は言った。


「この子を元の村に帰……すのはまずいだろうから、どこか安心出来るしっかりとした場所に彼を預けてくれない?そういうのキミのほうが詳しいでしょ?人間を辞めた、大神官カリドバーン殿」


「構わんが、貴様はどうする?」


「いやまさかおれがひょいっと人前に姿を現す訳にも行かないでしょ?もしおれが迂闊に人の前に出てご覧なさい、漏れなく阿鼻叫喚の大混乱よ?」


「確かに、違いないな」


「それに……ちょっとした『お仕事』しなきゃなんないからねー」


男の目の奥が赤く光った事に、もう一人の男……カリドバーンは気づいたが、特に指摘はしなかった。

その代りに言う。


「程々にしておけよ」


「善処します」


そうして男と別れたカリドバーンは、未だ震える子供を聖剣ごと抱えてその場を後にした。




後日、とある村が天災の被害を受けて無くなったとの噂が流れる。


天災であるにも関わらず、その村だけが局地的に被害を受けた事に人々は首を捻ったのだった。


***



「どーもー」


「……」


家に帰って来たら相変わらず異世界チックな不法侵入者が炬燵に鎮座ましましていた。


彼女は、これまた定例通りに文句を言おうと、いつもの姿を探すが、金の髪に紫の瞳をした勇者は見当たらない。


「あー、イルセならいないよ〜」


侵入者はひらりひらりと手を振りながら言った。


その様子に既視感を覚えて。それでも確信には至らなかったので、彼女は相手に訊ねる。


「もしかして、トア・モラさんですか……?」


「あれ?おれが誰だか分かってなかった?」


「そりゃ……」


今日の彼はトレードマークの般若面を被っていない。


だから見た目的には、黒髪に紅玉の目をした見慣れない小柄な青年が座っているだけだった。


「お面のあるなしごときで分からなくなるとは愛が足りないね〜」


「人を認識するのに、お面のあるなしってかなり重要ですよね?」


ミステリーモノの漫画とかでは、の魔術師〜とか、火傷を負った御曹司〜とか、成り済ましや正体を隠すためにお面やら覆面やらが大活躍しているくらいなのだ。


使用前、使用後、で相手が誰か判らなくなるのも無理からぬ事だと思ってもらいたい。



「愛のほうは見事に流されたな。ざまを見ろ」


般若改め、黒髪紅玉の男、トア・モラの横に、当たり前のようにして座っているもう一人男が言った。


さも知り合いの様な口振りだが、しかし、こちらはお面など一切着けていないにもかかわらず、その顔に見覚えがない。


「ええと……こちらのかたは……?」


「あれー?そっちも分かんない?」


「皆目見当も」


彼女が正直に答えれば、黒髪紅玉の男は腹をかかえながら爆笑した。


「だってさ〜。カルー可哀想〜あははははっ!」


黒髪紅玉の男に、『カルー』と言われ、彼女は言われた男を改めて見る。


青みがかった灰色の頭髪に、蒼玉の目。眉間に深い皺を刻む青年と壮年の間くらいに見える男。

確かに、先ほど聞こえた声は記憶にある、いたいけな少年ことカルーヴァの中田譲さんヴォイスに大変よく似ていた。


しかし……。



「どっちが本体で……?」


「本来の姿という意味か?それならばこちらだが?」


「仮の姿、若作りが過ぎてやしませんかね!?」


仮の姿と元の姿の見た目年齢があからさまに違い過ぎる。

声だけそのままなのがいっそシュールな程に。


「変装にしたってどうしてそんなチョイスを……」


「あー、知名度の違い?おれと違ってカルーは背格好でも割りとバレちゃうくらいにあっちじゃ名前と姿が知れてるからねぇ」


「そもそもなぜ正体を隠す必要が?そして今更そんな正体を明かして来たのはなにゆえに??」


解せぬとばかりに彼女が怪訝な顔をして訊ねれば、黒髪紅玉の男は「あー、それそれ」と言って居住まいを正した。


「それも含めて、ちょっとキミに話しときたいと思って来たんだ。けど……」


「けど?」


何か事情が変わったんだろうか?

そう彼女は思って、聞き返したが、黒髪紅玉の男が述べたのは全く主旨の違う内容だった。


「とりあえずお腹空いたんでなんかもらえると嬉しいかな〜」


「異世界人総じて自由過ぎる上に腹ペコ率高くないですかね!?」


先ほど正した居住まいが台無しである。


「分かりましたよ。作りましょう」


ここで拒否したところで結局は堂々巡って相手の思惑通りになる事は、これまでの経験で彼女も学んでいた。

どうせ作る羽目になるなら言い合いをする手間は減らすに限る。


彼女の了承に、黒髪紅玉の男は「愛してる〜」と言い、灰青蒼玉の男は眉を動かした。


それを見留めて、彼女は「ただし!」と、付け加える。


「安い味だろうと何だろうと文句は受け付けませんから!」


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