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1、「異世界よりこんにちは!」六畳一間は宇宙の広さ Ⅰ

「ええと……粗茶でございますが……」


「うん……」


そう言って湯呑みを受け取ったのは、鯛……とか、鮪……とか、書かれた湯呑みには不釣り合いな金髪、紫眼の青年である。

ついでに、炬燵のある六畳一間という、このロケーションにも無っ茶苦っ茶似合ってない。


「差し出がましいようですが……『粗茶』という謙遜に対して、『うん』と答えては、『本当に君んとこの茶は粗末だよね!』って言ってるようなもんです……いえ……実際思いっきり安いお茶ですけれども」


「ごめん……」


淡々と諭してやったら、相手はしゅんと項垂れてしまった。


「まあ……言っといてなんですけど、言ったところで、この場合現状がどうなる訳でもないのに言ってみただけなんで、次気をつけて下されば問題ないです」


「ありがとう……?」


「それで……」


そこで、一息つくために、自分もお茶を口に含む。

うん……安いお茶の割りに美味しく入れられたな……と、自画自賛する。


「どうして、異世界の『勇者・イルセイド』が、うちの炬燵に入っていたんですかね?」


ミカンの籠に伸ばそうとしていた青年の手をピシャリと制し、彼女は切り出した。


ミカンはやらん!買い置きしようとすると、地味に高いんだぞ!!

という思いが、多少……大分……物凄く混もっていたので、ちょっと力が入ってしまって少しは痛かったかも知れないが、それは先にミカンへ手を出したほうが悪い。


本人申告による、異世界の勇者は、怨めしげ且つ物欲しそうにこちらを……主にミカンを見ている。


これが、どういう状況かと言えば、話は数時間前に遡った。

『部屋に帰って来たら、金髪の男が炬燵で寛いでました』

と言ったら、通常どう考えても事案だろう。


実際、彼女も、初めは恐怖で凍りついたし、今まで見たニュースやら世界の不思議系バラエティーやら都市伝説系オカルトサイトなんかがマッハで頭の中を走馬灯した。


が……。


「きゃーーーーーっっ!!」


次の瞬間叫んだのは、彼女ではなく侵入者の男のほうだった。


「ゴブリンっっっっっ!!!!!!」


男はしばらく叫んだ後、彼女を指差し、そう言った。


(ゴブリン……)


『ゴブリンは、ヨーロッパの民間伝承やその流れを汲むファンタジー作品に登場する伝説の生物である。


…………(中略)…………


伝承や作品によってその描写は大きく異なるが、一般に醜く邪悪な小人として描かれることが多い。


(以下省略/Wikipedia調べ)』


(醜い……は、なかった事にして……小さい!?小さいって言いたいのか、この男っ!!確かに平均よりはちょっとばかし身長が低いかも知れないけど、そこまではちっちゃくない!……つもりなんだからね!!)


というか、言うに事欠いてゴブリンとはなんだ!と、彼女は思った。


ビットとかノームとか他に選択肢はあっただろうに。


少しばかり背が高そうでイケメンだからって、調子に乗るなよ……と、彼女は、相手を見やる。


(あれ?)


でも……。

と、そこで彼女は考えた。


(ノームってみんなおじさんみたいな姿してるんだっけ?)


彼女の思考は明らかに元の論点から反れていた。


それに気付いたのかそうでないのか、そんな彼女の様子をちらと見て、男はこれ幸いとばかりに退散を試みる。なぜか、炬燵の中へ。


ついでに……と、机の上に乗っているミカン籠からミカンを3つほど持ち出そうとしたが……。

それが余計だった。


「ちょっ……なにうちのミカンに手を出してるんですか!」


いい感じに反れていたはずの彼女の意識は、男のほうへと引き戻されてしまう。


「あ……いや……美味しかったので、ちょっともらって帰ろうかな……と……」


しどろもどろに言い訳する男を、彼女は睨んだ。


「はぁ!?」


「ひっ!!」


よくよく見てみれば、確かに炬燵の上には既に平らげられた後のミカンの皮たちが幾つか躍っている。


「人んちのもの勝手に食べるとか……」


「遺跡の中に有ったし、ダンジョンの一画的なものかと思ったんだよ……まさかゴブ……人の住まいだとは思わなくて……」


この男、また私をゴブリンって言おうとしたな?……と、彼女はもう一度、男に睨みを利かせた。


そこで、「はて?」と、男の発言におかしな内容があった事に気付く。


「遺跡……?ダンジョン……?」


改めて見てみれば、男の格好は奇妙である。


ヨーロッパ辺りの古い民族衣装みたいなものを着用しており、その上には現代日本において、まず日常生活を普通におくるエリアでは見かけないような甲冑っぽいものを装着している。

現代日本にはコスプレイヤーと言う者も存在しているが、そのための衣装と見るには造りが実用的かつ真実味があった。


何より、彼の見てくれはウィッグやカラコン、メイクでどうこうしたようなものではない天然の金髪、紫の瞳、そして彫りの深い容貌をしていた。


どこかのテーマパークから飛び出して来た、外国人キャストにこんな人が存在しているかも知れないが、この格好のまま移動して来たのなら、職質か、最低でも衆人注目でちょっとした騒ぎは免れない。

そして、態々この衣装を持参して、彼女の家で着替えて寛いでいたと言うなら訳が分からなさ過ぎる。


以上の事を踏まえて、彼女は、男に質問を繰り出した。


「あなた、誰なんですか?」


男発見から攻防を繰り広げて数十分、今更な質問だった。




某県某所にある六畳一間のアパートの一室。


ある女性の部屋にある炬燵の中からこの冒険物語は始まる。

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