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07 Get all done=全部片付ける

おやすみ のつづき07話。

追手の車を二台潰した通緒たち、その後何者かに撃たれてしまった千尋と野原は一体。

車内は荒い運転で飲み物がこぼれ、七瀬のズボンはびっちゃびちゃ。

すかさず前の座席からバスタオルが飛んでくるとか来ないとか・・・。

「ちーちゃん!」


「問題ないわ!」


 通緒の呼びかけに間髪入れずに返事を返す千尋は、ハンドルを大きく切りスキー場すぐ下のレストハウス駐車場へ車を乗り入れる。車体の下に赤いプラスチックが散らばった。

 シーズン前で休業中のため駐車場は封鎖されてはいたが門番は柔らかいプラスチック製の三角コーンだけだった。


「上から来る車は狙えなくてもこっち側の道路は丸見えなのね。さっきすれ違った車かしら。ノンタ、ありがとう」


「うん。さっきの車だと思う。シルバーの車体があって何かが光って見えたからハンドルを動かしちゃったんだ。ごめんなさい」


 千尋が話している最中、国道から見上げた位置の駐車場にあるはずのない車が止まっているのに気づいた野原はとっさの判断で自分側にハンドルを動かしていた。ガラスの割れた音は運転席側のドアミラーが撃ち抜かれた音だった。

 千尋たちが車を止めさせられた場所にはレストハウスがあって上の駐車場からは完全な死角になっている。しかし、道路側はスキー場の駐車場からは丸見え、反対側の位置は斜面になっておりこれ以上先には進めそうになかった。


「何かが光って見えたってことはスコープ付きかしらね、みっちゃん。右側のミラーがやられたわ」


「怪我はないんだな?」


 通緒の運転する車は下りへ差し掛かる。くわえた煙草のフィルターを噛みしめた。


「スキー場の入り口こっち側にもあるよな」


「あるけどそっち側は封鎖されてるよ!入っても建物があってこっち側まで道は繋がってないはずだよ!」


 何かを悟った野原が強めの口調で注意するが通緒の目はすでに覚悟が決まっていた。

 後ろからの銃撃はやまず、下りの峠道をこれ以上蛇行運転できるようにこの車は設計されていない。このまま下まで押し切ってもライフルで狙われていれば無傷で通過する確率は限りなくゼロだ。

 通緒の隣からため息が聞こえる。


「まぁ、スキー場だしね、行けないこともないかなー。そこ登ったら第二駐車場があるからそのまま斜面側を突っ切れば第一駐車場には出れる。障害物の有無は知らないよ、俺」


「Got it.(十分)」


 瑞希が示した先は封鎖された第二駐車場登り口だった。峠の下り坂の途中からさらに山の斜面を登るように道が続いている。歩道から十メートルほどの位置にあるこちらの門番はチェーン。それを見て通緒は口角を上げた。


「Awesome!(ツいてるぜ!)」


 右手で脇のホルスターから愛用のベレッタM92Fを抜き肘でパワーウインドーを全開にする。

 歩道の段差を軽く乗り上げ窓から弾丸を発射させた。三発目で命中したそれはしっかりと門番を舗装の上に横たわらせる。

 エンジンは唸り声をあげ、ジャリリと音を立てチェーンを踏み越していく。


「ブー!無駄づかいー!俺が外したら怒るくせにー」


 口をとがらせ抗議してくる瑞希には視線を送らずルームミラーで後ろの様子を確認した。追手は乗用車でこちらより斜面には強い。ぴったりと後をつけてくるが発砲は一度止んでいた。


「ナナピオ、降りる準備だけしとけよ」


 揺れる車内で必死に体を支える七瀬はポケットに無理やり拳銃をしまい込み、慌てて日本刀の藍色の袱紗(ふくさ)を外した。


「謎の男Aが撃ってきたってことは九龍側の人間じゃないのは確定、後ろの車がどう出るか、だなー」


「投げるか?ボム」


 通緒が助手席側のパワーウインドウを開けようと手を伸ばした時、七瀬が追手の異変に気付いた。


「運転手が電話してるジャン!後ろの車止まりそおっス」


「そーくるのかー。ノンター?そこから上確認できないんだっけ?」


 振り向いて追手を確認する瑞希がマイク越しに野原に声をかける。

 レストハウス入り口に止めた黄色のSUVから野原は降り、辺りを確認しながらレストハウスの階段を上っていく。道路側に面したテラス側へ移動すると斜面の上の車が見えた。


「こっちからは車しか見えないよ。ちょっと前出てみる」


 一歩、テラスへ足を踏み入れると野原の目の前にあったテーブルに穴が開く。野原の足は元の位置に戻らざるを得ない。


「ノンタ!大丈夫?」


 すかさず耳元に千尋の声が届く。エンジンをかけたままの運転席から千尋は再び全員の音声をつなげた。


「シルバーの車に乗っていたのは一人だったはずよ。こっちを狙っているなら今カンブ側は無防備なはず。ノンタはその位置から見える範囲で男の動きを観察して」


 第二駐車場に到着した通緒は黒いセダンの死角に入る位置で車を止めた。


「追ってこないな。ナナピオ、降りて確認して来い。動きがあったら教えろ。間違っても奴らの視界に入るなよ」


 先輩の指示に、ラジャーっス!、と片手をあげ七瀬は開いたドアを降りていく。スライドドアが閉まらぬうちに、通緒も運転席を降りた。


「ノンタ!お前の足出したところから撃たれた位置までどのくらいだ」


「一メートルくらいだよ、なんで?」


 会話を聞きながら瑞希が助手席から運転席に移動する。開いた助手席には通緒が乗り込んだ。


「どう思う?カンブ」


「じゃー突っ込んでってから決めよう」


「ちょっと待て!」


 通緒の制止も聞かず瑞希は車を発進させる。


「俺の車のミラーを撃ち抜いといてノンタの足は撃たないってことは威嚇。先手を打たないと。あっちが速く動いてたらまずいでしょ。ナナピオーそっちの車動いたらさっきのやつ投げてーピン引っこ抜いてから投げなきゃだめだよー」


 胸ポケットにあった煙草の最後の一本に火をつけうつむいて煙を吐き出す。瑞希の意志も固まっているのは通緒には手に取るようにわかっていた。

 今の状況は決して不利なわけではないが、本番は明日だ。

 出てきたバグはさっさと処理して置くのが最善の策。


「 Get all done. (全部かたづけるんだな?)」


「そー」


「だってさ、千尋ちゃん」


 言った通緒は拳銃を構える。

 二人の会話を聞きながら千尋は運転席を降りトランクから黒い大型の銃器を取り出した。女性が持つには少しばかり大きめのGM-94、いわゆるグレネードランチャーという代物だ。結んでいた髪をほどき、黒いロングワンピースの裾をまくり腿の位置でヘアゴムでまとめ、野原の背後へと移動した。


「こっちはオーケーよ」


 千尋の持ち物にぎょっとする野原を無視し、相手の狙撃範囲ぎりぎりのところで壁に背中を預けた。


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[良い点] 手に汗握るカーチェイスですね! ナナピオ、ナイピッチー(*´∀`)
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