04 junior colleague=後輩
【約束】
1.《名・ス他》相手に対し、または互いに、取り決めを行うこと。その取り決めの内容。「口―」
2.《名》(社会一般に約束⑴として通用する)規定。
彼の残した約束はこの意味には当てはまらない。
彼が残した約束は未来の希望だから。
彼の性格には通緒も瑞希も、千尋でさえ振り回され迷惑をかけられ、そして救われた。
だから彼が言っていたことを勝手に約束にした。
彼が言っていた絵空事を勝手に誓いにして胸に刻んだんだ。
「それでいいだろ。もとは月龍のミスだろ?なんで俺らがそこまで気を使わなきゃいけねーんだよ」
車線境界線のない住宅街の道路には申し訳程度に歩道が引いてあるが、幼児以外がそこを通っているのを見ることはほぼない。今は無免許運転もしておらず、しっかりと制服に身を包む通緒も堂々と道路の真ん中を歩いている。
「それはそーだけどさー」
昨夜から特に考えが纏まらないままその数歩後ろを歩く瑞希は途切れ途切れに返事を返していた。眠い目を擦りながら歩道脇の電柱に当たるよりは障害物のない道を歩くほうが安全かもしれない。
通緒たちがマンションを出たのは朝のラッシュ時刻を過ぎたあと。この時間帯車が通ることはめったになかった。たとえ車が来たとしても、飲酒運転や暴走車でない限り歩いている人を撥ねていくなんてことはないだろうし、ましてや都心から少し離れた閑静な住宅街でそのようは車が現れたことなどなかった。
ゆっくりと学校へ向かって歩く二人が学校へ着くのはたぶん2時間目が終わりに差し掛かる頃だろう。
学校での時間は退屈なことなどなくあっという間に過ぎていく。
この日も遅刻を注意されはしたが、いつも通り転売ヤーは購買のパンを取っておいてくれたし、千尋は二人の代わりにしっかりと授業を受けてくれている。
春の高校はみんながうきうきしている。入学、クラス替え、新しいことの始まりが草木の芽吹きと共にすくすくと大きく広がっていく。
通緒のクラスには昼休みになると3年の男子が数名やってくる。去年まで同じクラスだった転売ヤーを含むバスケットボール部の連中だ。
教室の後ろ側から呼ばれる声に振り向き、そのままその中に混ざり転売ヤーとパンと小銭の交換をする。
購買横の自販機でお茶を購入し、まだ寒くて誰もいない中庭のベンチに座って男だらけでランチを楽しむ。最近の話題は通緒のクラスにいる女子の話だ。新入生は大半の3年が狙いをつけているから、通緒が留年したのをいいことに少し余裕の出てきた2年生の彼氏募集中の女子情報をゲットし、今年こそは男だらけのクリスマスからの脱却を夢見ているのだ。
通緒に本命の相手がいることは承知済みでいつもこの話で盛り上がっている。
「あ、みっちゃん先輩だー」
突如頭上から降ってきた聞き覚えのある耳障りな声に自然と眉をしかめ、通緒は相手を確認しようとはしなかった。夜になれば嫌でも顔を合わせることになる生意気な後輩と学校でまでからもうとは全く思っていなかった。
だが、声の主は平気で手を振り話しかけ続ける。
「あの1年知り合い?」
転売ヤーが声をかける。
「まーな」
機嫌の悪そうな声で返事をしてからしょうがなく上を向いて呼びかける主に照準を合わせた。4階の窓に上半身を乗り出しこちらに合図を送る黒いおかっぱ頭の右手に握られているものがちらちらと光ってみえる。
「みっちゃんせんぱーい!僕からの差し入れでーす」
そういって太一は迷わず握っていた物を真下に向かって投げた。
舌打ちと共にベンチから駆け出し、地面に落ちるぎりぎりで通緒の左手がそれを受け止めた。
「僕甘いの飲めないのに間違って買っちゃったんだ!よかったら飲んでくださーい」
通緒が見上げた時にすでに太一は教室内に戻っていて、他の1年生が心配そうに上から覗いているだけだった。
「あっぶないな、なんだよあの1年。大丈夫かよ、通緒」
「まぁな」
受け止めた缶コーヒーを右手に持ち替え、少しひりひりする左手をグーパーさせて感触を確かめた通緒はその手のひらを見て先ほどよりさらに深く怒りの色を濃くした。
「for kids」。おそらく太一が缶に水性ペンで書いたものだろう。ご丁寧にしっかりと鏡文字で書いてあったそれはうっすらとだが通緒の掌に赤い文字を残した。
それを制服に拭い一つ深呼吸をしてから通緒はまた友達の輪に戻っていく。
内容はどうあれ、学校では退屈する時間がないのは事実だった。




