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おやすみの11話目です。

やっと一日目が終わります。長い。

けども、本人たちにとってはとても短く感じているんじゃないかと思います。

明日はもっと、濃い一日になりそうですね。

きょうはゆっくり、おやすみなさい。

 昨日の夜のように全員が瑞希の前に揃い、テーブルを囲んだ。

 タブレットとノートパソコン、それとスカルの灰皿がガラステーブルに置かれ、通緒はそこに灰を落とした。最後に茶色いA4サイズの封筒が瑞希の手によって並べられる。

 通緒は舌打ちをしてくわえ煙草のまま何かをつぶやいたが隣の千尋ですら聞き取れないほどの小さな声だった。


「じゃ、明日について」


 瑞希はわざとそこで一拍置いたがもう口を挟む者はいなかった。


「集合は19時予定だったけど、学校終わったらに変更。22時に通緒はホテルへ、ロビーは上杉に任せる、俺とノンタと七瀬で余計なのを片付ける」


 瑞希はタブレットにホテル周辺地図を出して待機場所と退路を指示した。真剣に聞き入る野原と七瀬の顔は昨日の顔とは違っていた。


「ナナピオと俺の顔が割れてるから、囮としてウロチョロする。相手も囮だってわかってるだろうから数は少ないと思う。ノンタは絶対に敵に顔を見せないでT社のほうを全員潰してほしい。上杉は退路の確保を頼む。スポンサーに連絡しておいてもいい」


 野原はT社の主要人物リストを、七瀬はホテル内の地図をそれぞれノートパソコンとタブレットで確認した。


「さて、通緒と上杉にはこれを一緒に確認してもらえたらと思ってるんだけど」


 目の前に掲げられた茶封筒をみて通緒はわかりやすくため息をついて眉間のしわを深く刻んだ。


月龍ユエルンからもらってきたのね?なんで早く出さなかったの?今日の男の正体も載ってたかもしれないじゃない」


 少し厳しい口調の千尋は「ホントこれだから男の子って嫌」と言って封筒を奪い取り無造作に封を開けた。

 中にはA4のプリントが数枚とさらに小さな封筒が入っていた。

 すぐに茶封筒とプリントを通緒に預け、小さな封筒から右手に中身のマイクロSDカードを落とした。封筒をすぐにゴミ箱に投げ入れると瑞希の目の前に何も持っていない左手を差し出す。


「あ、ハイ!」


 それを見て瑞希は急いでその手にカードリーダーを渡したが、要求はそれだけではなかった。


「スマホもよ」


「ハイ」


 素直に自分のスマートフォンを差し出した瑞希は、ごめんなさい、とつぶやく。

 スマートフォンで読み込んだ中身にはいくつかのファイルが入っていた。

 日本マフィア九龍会の情報とSネットバンクの佐々木サイドの情報、それから佐々木の後継人の情報と合併先だったT社の情報が分かれていた。

 そして最後に「Dearest 」と書かれたファイルがあった。

 クリックすると動画が再生され始める。


「Dearest ─Since I left you, I have been constantly depressed. My happiness is to be near you. (親愛なるあなたへ。あなたと離れてから私はずっと憂鬱のまま。私の幸せはあなたのそばにいることです)」


 純白のスーツを着たワン 月龍ユエルンがそこに映し出されていた。バラの花束を片手に流暢な英語で話し始めた内容はほぼラブレターだった。


「I want to feel your eyes, your lips, your heartbeat, you all the time. Someday I imagine the days when you smile at my side and I am saddened about every day. I will give you whatever you want. All of me belongs to you. (君の瞳、君の唇、君の鼓動、君のすべてをいつもそばに感じていたい。いつの日か君が私のそばで微笑んでくれている日々を想像して毎日を憂いているよ。君が望むものなら何でも与えよう。僕のすべては君のものだ)」


 瑞希と通緒は内容を聞きながら嗚咽の真似をしあい互いの鳥肌を見せ合った。

 動画の中のスポンサー様はさらに言葉を続けた。


「Let's apply what you most want now. It is not an engagement with me. I'm sorry. I am not stupid so far. You probably want to know important information at this mission. The number of people and the organization that will strike you. Organization that is our side. Let me give some advice at the end. (今君が一番欲しているものを当ててみよう。それは僕との婚約ではない。残念だよ。僕もそこまで愚かではないからね。君は今回の任務で重要な情報を知りたいんだろう。君たちを襲ってくるだろう人数と組織。我々の味方である組織。では、最後に忠告をしておこう)」


 甘く、優しい声音で静かにそう続ける月龍ユエルンが使っているBGMはG線上のアリアだ。

ノートパソコンを見ていたはずの野原もいつの間にか鳥肌が止まらなくなっていた。


「One of my hidden treasure is hired by him. Well, as it is literally confidential, the principal he hires seems to be unknown to the organization of who the boy is. I tell you about Nightmare. But I can not say it in detail. Right. You can rest assured. I taught that I should not hurt a woman with beautiful black eyes, so it will be fine. If he looked your beautiful eyes,he can't kill you,because that he is true man. But he is still pure. He is enjoying the fight purely. Like the guys you last year. Please contact me if there is something. Even if nothing is touched you are always welcome if you … (私の秘蔵っ子が一人、彼に雇われている。まぁ、文字通り機密事項だからね、雇った本人はあの子がどこの組織の人間かもわかっていないようだよ。一応ナイトメアのことは教えてある。詳しくは言えないけど、ね。安心していいよ。黒い美しい瞳の女性には危害を加えないようにと教えたから大丈夫だろう。君のその美しい瞳を見て殺したいと思うなんて人間じゃないからね。でも彼はまだ純粋なんだ。純粋に戦いを楽しんでいる。去年までの君たちのようにね。何かあったら連絡をくれないか。何もなくても君からの連絡ならいつでも、)」


「で!リストに載ってなかった奴がそれか。じゃあそいつは遊び半分で来てるってことかよ!一番厄介じゃねーか!」


 ラブコールの途中で千尋からスマートフォンを取り上げ、動画の残り時間が少ないことを確認してから通緒はそれを停止させ、持ち主の懐へ放り投げた。

 短くなっていた煙草をスカルの灰皿に押し潰し火を消した。ポケットに新しい煙草を求めたが、生憎台所に置いてきていたのでそのまま立ち上がり飲み物を調達しに行くことにする。歩く途中で先ほどの音声を思い出し、身震いがでた。


「みんなコーヒーでいいか?」


 通緒の声に反応してノートパソコンを置いた七瀬が、すみませんっス、と言いながら駆け寄ってくるので手伝いに来たのかと思いきや、目的は違ったようだ。


「俺コーヒー苦手なんで麦茶にするジャン」


「普段何飲むんだよ」


 反論がない三人のカップを用意し、コーヒーを注ぎながら通緒が尋ねる。


「んースポーツドリンクっスかねー。あとコーラ好きっス!」


「お子ちゃまー」


 にやにや笑いながら麦茶を注ぐ七瀬を置いて座っている三人にコーヒーを配り、七瀬と入れ違いに再び戻ってきて自分のコーヒーを仕上げて煙草を吸い始める。


「通緒が何で自分でコーヒー淹れるか知ってる?」


 瑞希が席に戻ってきた七瀬に問いを投げかける。首をかしげて、なんでっスか、と聞き返してきた七瀬に笑顔を見せ、声を上げた。


「通緒―、これ甘いよー?」


「あー?お前のはブラックだぜ?千尋ちゃんにはちゃんと二つ入れたし。あ、千尋ちゃんミルクもいる?」


「ええ、お願い」


 コーヒーフレッシュを二つ、煙草を持たない手で千尋に渡しに行くと瑞希が頭上にカップを掲げていた。

 なんで甘いんだよ、と瑞希のコーヒーを受け取りフーフーと冷ましながらひと口飲んだ通緒は瞬時に眉をしかめ舌を出した。


「にっが!ちゃんとブラックだろーが!」


 それを見て七瀬の頭の中の図式がきれいに組みあがる。


「猫舌でブラック飲めないとか!お子ちゃまじゃないっスかー!!」


「なるほど、みっちゃんは味覚がお子様なんですね」


 間髪入れずに野原も続く。


「てめぇ誰がちゃん付で呼んでいいっつったよ!」


 瑞希にコーヒーカップを返し煙草を吸いながら睨みを利かす。


「繊細ってことよね、みっちゃん」


「一人で寝れなくて猫飼ってるくらいだしなー」


 だがここでさらに千尋と瑞希も畳みかける。


「Hey guys, are you kidding me?(おい、喧嘩売ってんのか?)」


「なんか、みっちゃん先輩のことわかってきたっス。実はすんごい優しいんジャン」


「僕の質問にも実際ちゃんと答えてくれたもんね、みっちゃんまっじめー」


「やっさしー!まっじめー!」


「Stop! That’s it! That’s enough. (やめろって!ここまで!もうわかったから)」


 七瀬と野原にさらに合の手を入れる瑞希の声を聴き左手で顔を覆い煙草を持ったまま右手を挙げて降参する。台所に戻り静かに自分専用のカフェオレを持って空いているキッチンテーブル側に腰かけた。


「Yeah, you got me. (ああ、俺の負けだよ)」


 ばつが悪そうに静かに灰皿を取りに行くと千尋と目が合った。


「本当に丸くなっちゃったのね。でも、あたしは今のみっちゃんのほうが好きよ」


 そういって微笑まれれば、完全に敗北を認めざるを得ない。


「なんでお前らそんな連携取れてんだよ」


 通緒はほころびそうなお顔を何とか立て直す。

 だが、満場一致の答えが返ってきた。


「みっちゃんのおかげでしょ」



 今日の仕事は面談をして佐々木の標準をこちらに合わせること。それはクリアした。

 本番は明日の夜。

 明日は日中に普通の高校生として授業を受けに登校しなければならない。

 今夜はここまで。


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