旅の語り屋・終
「さて、この二つの話を聞いて、どう思った?坊や」
男の子はぽかんとしたまま、男の方を見続けている。
「これは今もなお語り継がれている『魔王と勇者の伝説』の裏側を記したものなんだよ。坊やも一度は聞いたことあるだろう?」
その言葉に対しては、首肯を示した。
「『虚言の王』と『平和王』、『勇敢な魔導師』と『裏切り勇者』は同じ話だけど、語りが違えば真実も違ってくる。かたや王国の苦難と栄華の物語。かたや魔王や勇者の知られざる人生の物語。物は語られるなかで尾ひれ胸びれがつくものだから、これはどちらかが嘘かもしれないし、どちらも本当かもしれない。これが遠い過去となってしまった今、真実を知ることは不可能に近い。だから坊や、君は自分の目で、それを見抜いていくんだ。後世に伝えられるように、ね」
男の子は本当に話がわかったのかは定かではないが、力強く頷いて見せた。
「はい、これでお話は終わり。日が暮れないうちに、親御さんとお家に帰るんだよ」
「お兄さんはなんなの?」
不意に男の子が質問を投げ掛けてきた。
「え?、私が何かって? 最初に言った通り、旅の語り屋だよ。お話をしながら、旅をしてるんだ。じゃあね坊や。ほら、いったいった」
バイバイと言い残して、男の子は向こうへ走って行く。そこには、親とおぼしき大人が二人、立っていた。
その姿を見送ってから、男は荷台に手をかけて、ぼそっと呟いた。
「あなたの良い話が語れる日を、楽しみにしています」




