アゲハ(1)
とりあえず、イスに座って机に突っ伏しながら嘆いていた悟史は、これじゃあいかんと身体を起こし、深呼吸して気合いを入れた。
「ダンジョン稼働させなきゃ帰れないんだ。さっさとやるか!」
しかし、ダンジョンを稼働させると言っても、何をすればいいのか悟史はさっぱり分からない訳で、とりあえずアゲハを頼ることにした。
「ちょっとアゲハに聞きたいんだが」
悟史はイスをクルッと回し、アゲハに身体を向ける。
アゲハは立て膝でしゃがんでいて、相変わらず忍者スタイルだ。
「何でござるか?」
「このダンジョンについて聞きたいんだが……。ってその前に、ここはダンジョンでいいんだよな?」
外見が城だったから、和風MODのダンジョンなんだろうと悟史は安直に思ったわけだが、まだ違う可能性もある。
「そうでござる。お館様のダンジョンでござる」
どうやら安直で良かったようだ。
「アゲハは俺が何をするためにここにいるか分かっているか?」
まずはこの現状をすんなり受け入れているアゲハに、ダンジョン作り以前のことを色々と聞きたかった。
「ダンジョンを完成させるためでござる」
目的は分かっているようだ。
「俺はどうやってここに来た?」
「管理者の手により生み出されたでござる」
「管理者?」
悟史は管理者という言葉に聞き覚えがあり、すぐに思い出した。
「ああ、ピエロ男が言っていた世界の管理者ってやつか」
つまりアゲハの前に現れた管理者は、あのピエロ男なのだろう。
「で、生み出されたって何だ? どういう状態だったんだ?」
悟史は白い空間から落とされた。
悟史が降ってきた、ならあの白い空間と直結してたと考えられるが、生み出されたとなるとよく分からない。
「管理者の前の空間がパアッて光って、そこからお館様が出てきたでござる。お館様は管理者に抱きとめられて、気を失っていたでござる」
ん?
抱きとめら……。
いや、無視しよう。
嫌なものを想像しかけて、悟史は考えることを放棄した。
「そして、管理者からお館様を渡されて、布団に寝かせたのでござる」
「そうだったのか」
快適な寝心地はアゲハのおかげだったのだ。
「ありがとう」
「とんでもないでござる! 当たり前のことをしただけでござる!」
アゲハは大きな瞳をさらに大きくして、驚いた顔をしていた。
「それでアゲハは管理者から何を聞いた?」
アゲハはしばし考えて、首を傾げながら答えた。
「……特に何も聞いてないでござる」
「え? じゃあ何でダンジョンを完成させるって目的を知ってるんだ?」
悟史はアゲハがあのピエロ男から、色々と聞いているのだと思っていた。
「それは、生まれた時から与えられた使命だからでござる」
アゲハは力強く答えた。
うーん。
よく分からない。
悟史は眉を寄せる。
アゲハは城ダンジョンと同じく、そういう感じでピエロ男に作られたのだろうか?
アゲハに突っ込んで聞いても答えが得られそうに思えず、悟史はそこらへんのことを思考放棄することにした。
「えーと、じゃあ、ダンジョンを完成させるにあたって、材料とかどうなってるか分かるか?」
「お館様が保持している物品などは、その板で把握出来るでござる」
アゲハがノートパソコンを手で示す。
そういえば、城ダンジョンに不似合いなこのノートパソコンを、まだいじっていなかったな。