異世界(2)
「そういえば、あのピエロ男が『僕の世界』とか言っていたな」
僕の世界とはどういうことだ?
ここら一帯あのピエロ男の土地で、それを僕の世界とか言っていたのか?
悟史は現実的な答えを導き出そうとしたが、それは次の光景によってもろくも崩れた。
「飛んでる……。炎が……」
気持ちの良い青空の中を、鳥の形をした炎が飛んでいた。
ゴウゴウと音を立てそうな勢いで燃え盛っているのが遠目でも確認出来、羽のように広がっている部分が上下に動いているが、炎が飛び散る様子はない。
悟史が呆然と見ているなか、巨大な炎の鳥は優雅に飛び去っていった。
「うう……。どう見ても異世界……」
いや、あれは3D映像か何かだ! と否定したい気持ちもまだあったが、ピエロ男と真っ白な空間のことが脳裏をよぎり、悟史は否定することを諦めた。
無駄な抵抗にすぎない。
悟史は項垂れながら窓から離れ、身体を部屋の中へ向けた。
「おっと」
振り向くと布団は片付けられ、くのいちが立て膝で控えていた。
「え、えーと。君は誰?」
この場にはくのいちしかいないため、悟史はくのいちとの会話を試みることにした。
「お館様から頂いた名はアゲハでござる。お館様のサポートを仰せつかっているでござる」
「ん? お館様から頂いた名?」
悟史はくのいち・アゲハの言葉に引っ掛かった。
「お館様って俺のことだろ? 君の名前なんて決めた覚えないんだけど」
「ダンジョン製作のさいに、名前を頂いたでござる。この身もお館様に頂いたものでござる」
「この身も? 何を言って……」
アゲハの言葉を頭の中で繰り返していて、悟史は急に思考が開けた。
アゲハ、サポート、ダンジョン。
この言葉に共通するのは一つしかない。
「お前、MOD開発キットのサポートキャラか!」
ダンジョンMODの製作には、初心者のために開発キットが無料で提供されていた。
その開発キットの中身を分かりやすく説明してくれ、間違わないように誘導までしてくれた白っぽい球体がいたのだ。
悟史は開発キットのあらかたの説明を受けたところで、その球体も外見などをいじれることを知り、和風MODと合うように色々と変えた。
姿はくのいち。
忍衣装は赤と黒を基調とし、足が見えるように短パン。そして、より魅力的になるように、太ももまである黒タイツを選択した。
文体も忍者っぽく。
といっても、悟史にはござるにするのが精一杯だった。
もちろん名前も付けた。
名前はアゲハ。
目の前にいるくのいち・アゲハは、悟史が手を加えてサポートキャラにしたアゲハそのものだった。
「うわー……。まじか……」
何もここまで再現しなくても……。
悟史は手で顔を覆いつつ、指の隙間からチラリとアゲハの足を見た。
短パンと黒タイツの間で主張する肌色は、忍衣装が黒と赤なだけあってかなり映える。
誘い込まれるような肌色空間だったが、フェチのフの字も覚悟が出来てない悟史は、心踊るより先にいたたまれなさを感じていた。
「なんという心折設計……」
もう終わりにしていいよね……?
……終わりになんて出来ないけど。
自分にツッコミを入れながら、悟史は心の立て直しをはかった。