異世界(1)
意識がだんだんと覚醒してくると、悟史は暖かい何かに包まれているのが分かった。
ぬくぬくとした暖かさは寝心地が良く、寝不足なのもあって、悟史はなかなか起きられなかった。
「……様。……お……様」
「うーん」
まどろむ意識の中で声を聞き、悟史はいつも通りの返答をした。
「あと……。五分……」
「承知したでござる」
悟史はこれで寝れるとまた深い眠りに入ろうとしたが、相手の変な言葉が頭に浸透してガバリと起きた。
「ござる?」
声が聞こえてきた方を見ると、そこにはくのいち姿の女の子がいた。
「おはようございますでござる。お館様」
くのいちは悟史を見て、ニコニコと笑っている。
「おはようございます……。って、え? お館様?」
混乱しつつも挨拶を返した悟史だったが、お館様なんて言われるような人間じゃないため、他に誰かいるのかと周りを見回す。
悟史がいるのは簡素な部屋で、天井も壁も床も全面板張り。
観音扉の窓はあるがこれも木製で、今は開け放たれており、部屋の中が明るいのは窓から入ってくる日の光のおかげのようだった。
家具はノートパソコンがのった机が、壁にくっつけて置かれているだけ。
他には何もなく、そして布団に寝ていた悟史とニコニコと笑っているくのいち以外誰もいなかった。
「えーと……。お館様って俺のこと?」
「そうでござる」
「えーと、えーと……」
自信満々に答えるくのいちに、悟史の頭はますます混乱した。
何でこんなところにいて、何でくのいちにお館様なんて呼ばれているのか、悟史は眉間にシワを寄せて必死に考えた。
「えーと……。俺は確か……。そうだ! いきなり変なピエロ男に連れてこられたんだ!」
悟史はどこに連れてこられたのか確認しようと、布団から出て、窓に近寄り外を見る。
「何だこりゃ……」
悟史がいる部屋は高層にあるらしく、外を見渡すことが出来た。
外は一面の森で、どこまでも緑の木々が広がり、その奥には山が見える。
永遠に続くかのような大自然だった。
「えーと、日本。じゃない……?」
高層から道の一つも見つけられないようなド田舎が、日本にあっただろうか?
この景色からは日本どころか、文明の匂いさえ感じ取れなかった。
そうなると、悟史はこの高層の建物が何なのか気になりだし、窓から身をのり出して建物の壁を見た。
「これは……。ビルとかマンションじゃないな」
真っ白な壁と下の方に瓦屋根が見えた。
瓦屋根なら一軒家か何かだろうが、日本家屋にしては高層すぎる。
瓦屋根で高層の建物。
悟史が思い付くのは一つしかなかった。
「城か……」
悟史はピエロ男がダンジョンを作れと言っていたのを思い出した。
「城は用意してあるんだな」
悟史は他にも何か見えないか、窓から外の景色をくまなく探す。