悪魔(1)
「うわーーーっ!」
悟史はパソコンからの突然な発光に、目を腕で覆い叫んだ。
悟史には何が起きたのか分からなかった。
パソコンが爆発するのかと身構えてみても、悟史が思っているような衝撃はいつまでたっても来ない。
悟史はそっと腕をおろす。
そして、目の前に広がる光景に唖然とした。
「何だこりゃ……」
全て白。
上から下まで何から何まで何もなく、ただ真っ白だった。
立っている場所さえも白く、あまりの白さに悟史は床がないと錯覚してしまいそうになった。
「落ち着いたかなー?」
後ろ上方から声がして、悟史は驚きながら振り返って上を見た。
そこには足を組んでイスに座った格好をした男がいた。
見上げるほど離れた位置におり、服は上下黒、靴も黒の全身黒ずくめで、黒い髪と狐目の黒い瞳を持ち、顔にマークを描いただけの簡単なピエロメイクをしていた。
ピエロ男以外は全て白なため、そこにイスがあるのかは分からなかったが、何かに座っているのは分かった。
「はーい。こんばんちわ。えーと、“サット”くん」
ピエロ男は悟史をサットと呼んだ。
「おめでとうございまーす! サットくんはこの僕に選ばれましたー!」
どこから出したのか、ピエロ男はオモチャのラッパと太鼓で、ドンドンパフパフと囃し立てる。
「はあ? 選ばれたってどういう……? いやいや、その前にどうして俺の名前を知ってるんだ?」
サットとは悟史のプレイヤー名だった。
その名前をリアルで明かしたことはなく、悟史を見てサットと呼べる相手はいないはずだった。
「えー? どうして知ってるかって? それはー」
ピエロ男はもったいぶるように話す。
「それは?」
ピエロ男の話し方にイライラしながらも、悟史は先を促した。
「それはー」
ピエロ男は細い目をさらに細くしてにっこり笑う。
「僕がゲームの運営者だからでーす!」
「運営者?」
「そうでーす。運営者でーす」
「いやいやいや。運営者だからって分かるもんでもないだろ」
登録した時に顔写真を添付した覚えなどない。
「それが分かるんだなー。僕は運営者だからねー」
「そんなわけ――」
悟史が否定しようとしたら、ピエロ男がビュンと眼前に降りて来た。
悟史が驚いて顔を引くと、その分ピエロ男が顔を寄せ、悟史の目の前でさらに笑みを深めた。
「でも、僕はただの運営者じゃないんだよね」
ピエロ男の笑みが得体の知れなさを醸し出し、悟史は急に寒気を感じる。
「この場所がどこか分かる?」
「え?」
この場所。
ただ白が続くだけの空間。
さっきまでは自分の部屋にいたはずなのに、見覚えどころか本当に現実なのかと疑いたくなるような場所に悟史は立っている。
ピエロ男のインパクトで悟史の思考から追い出されていたが、ピエロ男に言われたことで再び悟史の意識に戻って来た。