投稿と採用(2)
「経験値の入らないダンジョンはよろしくないですかー?」
悟史はパソコンに向かって、きっといるであろう画面の向こう側のプレーヤーたちへと疑問を投げた。
もちろん返事が来るわけがないが、誰も訪れることのない城ダンジョンがその答えだと言っているようだった。
「明日も学校あるし、もう寝ようかな……」
さすがに完徹するわけにはいかないと、悟史が諦めかけた時だった。
悟史の城ダンジョンにプレイヤーが一人現れた。
「キターーー!」
深夜だから騒ぐわけにもいかず、悟史は小声で叫び、ガッツポーズをする。
「初めての挑戦者はピエロか。珍しい格好だな」
中世風世界観のゲームだから、プレイヤーの格好は騎士とか魔法使いとか中世風に合った格好が多い。
そもそもヴァニラには中世風の格好しかないので、自然と中世風で統一される。
「まあ、俺も日本刀とか作ってるから、この人もどこかのMODダンジョンで手に入れたんだろうな」
画面の中のピエロはダンジョンに入っていく。
「この人がダンジョンをクリアしてから寝よ」
初めてのダンジョン来訪者にワクワクして、悟史は寝られる状態じゃなかった。
悟史は画面をダンジョンの中に切り換える。
MOD製作者はプレイヤーを操作している時と同じアングルで、ダンジョン内を見ることが出来る。
「ん? 何だこいつ?」
ダンジョンの中に入ったピエロは、配置した罠をヒョイヒョイと避けていく。
まるでどこに罠があるのか分かっているようだった。
悟史はそのピエロを追っていく。
「絶対におかしい」
ピエロは謎解き要素も最短でクリアしていった。
まるで攻略本を片手にプレイされているようで、言い知れない気持ち悪さが悟史の中でふくらみ始める。
「何で分かるんだ?」
ピエロはそのまま最上階にまで到達してしまう。
最上階には宝箱が用意してある。
ピエロは宝箱に触り、そのまま止まった。
「何だ?」
じっとピエロを見ていると、画面にメッセージのアイコンが出た。
「ピエロからか?」
悟史は送られてきたメッセージを開く。
『このダンジョンを気に入ったよ。君を採用する』
「へ? 採用?」
採用という言葉に、悟史は人気が出れば公式に採用されるという噂を思い出した。
「あれ本当だったのか? え? で、俺のダンジョンが公式に採用? え? マジ?」
若干混乱気味なものの、悟史の中で嬉しさが沸き起こる。
「すっげえ! 今日、投稿して良かった!」
悟史は何度もメッセージを読み、これが現実だと噛みしめる。
「やった! やった!」
そうして喜んでいると、メッセージが次の文章へと勝手にきりかわる。
「へ? 俺はクリックしてないぞ?」
悟史は驚きながらもその文章を読んだ。
『こちらの世界へ招待しよう』
「は?」
パソコンから強烈な光が放たれ、間抜けな声を出した悟史を包み込んだ。
「うわ――」
そして、一瞬でその光は消えてしまう。
パソコンの画面の明かりだけが照らす部屋の中には、悟史の姿はなかった。
悟史の座っていたイスが、ゆっくりと回る。
主人を無くした部屋の中は、時計のコチコチという音だけが虚しく響いた。