アゲハ(2)
悟史はイスを回してノートパソコンに向かう。
「コンセントは……。なさそうだな。これ電源入るのか?」
悟史はノートパソコンを開き、電源を入れるべくボタンを押す。
ブンと低い唸りを鳴らし、ノートパソコンの画面が点いた。
「どっから電気が来てるんだろう……」
普通じゃないノートパソコンに若干不安になりつつも、どんな不思議が起こっても今さらだと悟史は開き直る。
ノートパソコンの画面には、悟史がMODで作った外見そのままの城ダンジョンが映っていた。
「ふむ」
城の各階を確認するために、マウスを操作する。
ダンジョンMODと同じなら、見たい階層をクリックすれば、カメラが作動して城の中が見れるはずだ。
「あれ? 真っ黒だ」
一階をクリックしたが、パソコン画面の右上に現れたカメラ映像には何も映らず、ただ黒い四角がそこに出ただけだった。
「どうなってるんだ?」
カメラが映らないんじゃ確認のしようがない。
「なあ、アゲハ。一階には何があるんだ?」
「入ったことがないので、知らないでござる」
「入ったことがない?」
この部屋は城の上階に位置する。
この部屋へ来るのに、一階は通らないのか?
と思いつつ、悟史は部屋の扉を見ようと首を巡らせるが、目的のものは見付からなかった。
「は? 入口がない?」
部屋に扉は付いておらず、三方は木の壁のみ。
残る一方の壁には窓しかない。
まさか……。
「アゲハはどこからこの部屋に出入りしているんだ?」
「天井裏でござる」
おおっと。
予想の上を来た。
窓から出入りしているんじゃないんだな。
「天井裏は各階に繋がっているでござる。外へも繋がっているでござるが、くせ者が入れぬよう、仕掛けがしてあるでござる」
「俺もそこから出られる?」
窓から出るのは無理だ。
天井裏から安全に出られるならそちらを選びたい。
「天井裏からでござるか? そうでござるな……。何ヵ所か壁を伝って降りるところと、ぶら下がって渡るところがあるでござるが、お館様なら行けると思うでござる」
アゲハは瞳をキラキラさせながら答えた。
「いや、無理だから」
何だその根拠のない自信満々な答え。
「まあ、外に出なくてもいいか」
ダンジョンさえ作ってしまえば、この世界とはおさばらだ。
悟史は異世界に少し興味がわいていたが、巨大な炎の鳥がいるような世界なのだから、出るのは得策じゃないと考え直した。
「アゲハに頼みたいことがあるんだが、ちょっと一階に行ってきて、一階がどうなっているか確認して来てもらっていいか?」
「承知したでござる」
アゲハはサッと飛び上がると、一瞬で天井の一部を開け、そこから天井裏へと入っていった。
「本当に天井裏が移動手段なんだな……」
悟史はアゲハの忍者っぽい動きに、少し感動してしまった。
「忍者がリアルで見られるなんてなあ」
漫画やアニメでは馴染みがあるが、リアルだとそうはいかない。
せいぜいコスプレがいいところだろう。
「ここから帰れば元の時間に戻れるし、焦る必要もないし……」
少しぐらい楽しもうかな。
なんてのんきなことを考え始めた悟史だった。




