くのいち
上村悟史はノートパソコンと机を置いただけの殺風景な部屋にいた。
床と天井と壁は木で作られ、明かり取りのためと思われる小さな窓が一つだけあり、そこから入る太陽の光が部屋の中を明るくしていた。
「どうしてこんなことに……」
何回目か分からぬ呟きを漏らし、悟史はイスに座りながらノートパソコンの横で机に突っ伏し、盛大なため息を吐いた。
「どうしたでござるか。お館様」
悟史の横で床に片膝をついて座るくのいち姿の可愛い女の子が、悟史を心配げに見つめている。
黒と赤の忍者衣装は裾が短く、片膝をついているせいで短パンが際どいところまでずり上がり、そこからムチムチの足がスラリと伸びている。
太ももまでの長さの黒タイツを履いていて、短パンと黒タイツの間に出来た肌色の空間が目線を誘う。
普段の悟史なら思わず食い入るように見ているところだったが、そんな風には見ることが出来なかった。
むしろ……。
「痛い。痛すぎる」
卒業したはずだった厨二病。
封印したはずの黒歴史。
それらを目の前で見せつけられ、さらには周りにさらされているかのようで、悟史は心がとても痛かった。
いや、厨二病や黒歴史というより性癖か?
悟史は訂正を入れてみるが、恥ずかしいことには変わりなかった。
「大丈夫でござるか! どこが痛いのでござるか!」
くのいちが悟史の周りをあたふたと右往左往する。
「ケガなら見せてくだされ! 我が一族に伝わる秘伝の薬を塗っておけば、ケガぐらいならたちどころに治るでござるよ!」
「いや、いいよ……」
痛いのは心なのだから。
「そうでござるか……?」
くのいちは眉をハの字に下げ、しょぼんとした顔をした。
悟史はその顔を見て、思わず頭を撫でていた。
くのいちの顔がパッと明るくなる。
忠犬。
そんな言葉が悟史の頭をよぎった。
可愛い女の子に慕われれば嬉しくもなるが、悟史は手放しで喜べなかった。
何故なら、このくのいちの全てを、悟史が設定したからだ。
自分で描いたイラストには萌えられない。
絵のうまい友達が言っていた話を、悟史は思い出した。
確かにそうだな。
今の悟史はそれを身をもって実感していた。
「本当にどうしてこんなことに……」
悟史はゲームが好きなだけのただの高校生だった。
なのに今は、自分が設定したくのいちが横にいて、自分が設定した建物の中にいて、そして、全く知らない異世界にいる。
悟史は異世界に連れてこられていた。
しかも、自分が作った和風MODがある異世界に。
悟史は和風MODダンジョンのダンジョンマスターになっていた。