6.彼の本気
「フ、フチーレ…さん…」
恐る恐る振り返ったナインが見たものは、明らかに不機嫌そうな鋭い眼差しで相手を睨みつけながらリボルバーを構えているフチーレだった。
突然豹変したフチーレに戸惑いを隠せないナインの後ろでは、突然仲間の一人が倒れたことに驚く人間達が居た。
すると、急に誰かが自分の手を掴んでいるのに気付いた途端、フチーレの後ろの方へと引っ張られていた。
「魔王様どうして…」
「あそこにいるとフチーレの邪魔になるからね」
あくまでにこやかに応える魔王にナインは手伝わないとっと申し立てるが魔王は首を横に振る。
「今前に出ると撃たれるよ」
魔王の本気な目に一瞬体が硬直したナインは黙ってフチーレの戦いを見守る事にした。
「…フチーレの前に出てどれだけ撃たれたことか…」
自分の横から嘆く様な声が響き、先程の魔王の目が本気だった意味が分かったナインは知らなくてもよかった様な気分になる。
そうこうしているうちに、仲間の一人が倒されて怒らない者が居ないのが当然で人間達の殺気は完全にフチーレ一人に向けられていた。
「テメェ!やりやがったな、オメェらやっちま…」
「うるさい口だな…」
敵の一人が仲間に指示を出そうとした途中にフチーレは喋っていた者に二発目の弾丸を撃ち込んだ。
それには流石にナインも人間達も戸惑いを覚えた。
「テメェ!人が喋ってる途中に!」
「何でそんな台詞待ってなきゃならねぇんだよ」
そう言っている間にもまた一発、弾丸を人間に撃ち込んだフチーレ。
また一人と倒れた仲間を見て、冷徹なフチーレに人間達は次々に悪魔だと囁き始める……悪魔ですけど。
「すっごい理不尽!」
「あはは…あの時と一緒だ…」
「あの時って、何があったんですか⁉︎」
冷徹なフチーレを見て思わず叫んでしまったナインの横では心ここに在らずの様な状態の魔王が何やら呟いていた。
人間達が戸惑っている間にフチーレはリボルバーの撃鉄を引き起こしていた。
「じゃあ次…いきますか…」
また一発、銃の引き金を引くと難なく敵に当たりまた一人と倒れた。
このままではまずいと感じた人間達は無理矢理に突っ込んで行くが、フチーレの銃はぶれること無く人間達を倒していく。
しかし、それは六人までが限界だった。
「リボルバーの弾は六発が限界だろ!喰らいやがれェ!」
六発全てのリボルバーの弾が切れて当たることの無かった四人が剣を構えたまま空中に飛び上がると、弾を使い切ったフチーレに襲いかかる。
「危ない!」
危険を感じたナインが助けに入ろうとしたが、次の瞬間にフチーレは持っていたリボルバーを手放し、左右両方の袖口から滑り出す様に拳銃を取り出していた。
素早く腕を交差させると躊躇い無く襲いかかる四人に一発づつ銃弾を撃ち込む。
空中では逃げられず、もろに撃たれた四人は白目を向き力無く地面に倒れる。
呆気に囚われているナインの後ろではクスクスっと小さく笑っている魔王が呟いた。
「駄目だよ油断しちゃ…二丁拳銃を持った時が彼の本気なんだから」
ナインが呆気に囚われ、武器が散乱し、十人の敵が倒れている中庭で呟いた魔王の声は誰の耳にも届くことは無かった。