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作者: LiN

由香へ



 もうすぐ卒業ですね。

 卒業までにやろうと思っていたこと、今やります。

 由香からもらった手紙の返事を書くことです。



 由香からもらった手紙を読んで、二年前の私は困惑し、傷つき、怒り、赤面しました。(本当に顔を真っ赤にしながら読みました。)由香が心配した通りですよ!

 まず私のことをこんなに見ている人がいるんだと驚きました。書き出しはなんかラブレターみたい…。

 なのにその後にはひどいことが書いてありました。私が無理してるとか、見てると辛いとか。私がいかに無理をしているかつらつらと書いていましたね。全部正解でした。まったく。

 由香は真面目でおとなしい性格ですが、ものすごく大胆で男らしいというか、ずばっと切り込んできて私を狼狽させます。それはあの時も今も変わりません。まったくもっていい性格していると思います。



 由香に対して強がるのは無理なようです。

 とてつもなく恥ずかしいですが、書くしかない。



 二年前、私はテスト中に教室でオモラシをしましたね。

 試験勉強で疲れていたからだと思いますが、オシッコをしたくなっていることに気づきませんでした。試験の最中に突然トイレに行きたくなり、どんどんきつくなって、我慢しました。普段の授業だったら、恥ずかしいけれど手を挙げてトイレに行っていたと思います。でも、テスト中に席を立ったらテストはそこで終わりになってしまう。我慢するしかありませんでした。

 結局我慢できず、パンツの中にオシッコをしてしまいました。小学校低学年の時に家でお父さんに怒られてびびってもらしてしまった時以来のオモラシでした。

 パンツがオシッコで濡れて気持ち悪くて、何より情けなくて、早くどこか別の場所に行ってしまいたかったけれど、なんとかそのままテストを終わらせました。由香は私が泣かなかったと書いていましたが、実際は答案用紙に涙をポタポタとこぼしていました。テストを終わらせたのは意地みたいなものです。由香が書いた通り、強がっていたのです。

 テストが終わってから、私は床に広がったオシッコを自分で拭こうとしました。これも意地みたいなものです。なのに由香は自分が拭くから保健室に行きなよと私に言いました。由香から向けられた優しさが辛くて泣きそうになりながら私は教室を出ました。

 あの後、床に広がった私のオシッコをを拭いてくれたのはやっぱり由香なんですね。この事を知って、私は顔が真っ赤になりました。というか、今もなってます。

 私が泣かなかった、というのは、やっぱり間違っています。私は保健室に入って保健の先生に「オシッコが…」とだけ言って、あとは言えずに小さい子どものようにわあわあと泣いてしまったのです。着替えも自分だけでできず、先生に手伝ってもらいました。

 保健室で着替えさせてもらった体操服を着て教室に戻り、残りのテストを受けましたが、もう消えてしまいたかった。制服を着たみんなの中で私だけ体操服。足元の拭かれた跡。辛くて、恥ずかしくて、さっき泣いたばかりなのに、また泣き出してしまいそうでした。

 家に帰って、私が体操服で帰ってきたのを見たお母さんに「どうしたの?」と聞かれて、どっと涙があふれて、また泣いてしまいました。

 由香がもう知っているとおり、私は泣き虫です。

 辛かったり恥ずかしかったりするとすぐに泣いてしまいます。

 もう何回、由香の前で泣いてしまったことでしょうか。怒られたり、からかわれたり。お願いなので、今後もこのことを誰にも言わないでください。もちろんオモラシのこともです。

 二人きりのときにからかわれるのは、もう慣れました。うそです。少しは手加減してほしいと思います。



 思い出して恥ずかしいと思うのは、オモラシのこと以上に、由香が私のことをよく見ていて、辛い思いをしていることを気づかれていたことです。

 由香からもらった手紙を読み返すと、恥ずかしくて布団にくるまって「わー!わー!」と叫びたくなります。

 最初に書きましたが、全部正解です。

 あのあと、クラスメイトにおはようと言うのに、ものすごく勇気が必要でした。オモラシのことを言われたらどうしよう。落ち込んでるなんて思われたくない。

 ひそひそ話?聞こえてました。もう辛くて辛くて、聞こえないふりをするしかないでしょう?

 先生にあてられた時いつもより大きな声で返事をしていた?はいはい、しました。先生にも、クラスのみんなにも、「私は大丈夫だからっ!」って伝えたくて、大きな元気な声で返事をするようにしましたよ。

 部活をがんばってた?めちゃくちゃがんばりました。体が止まると、声をだすのを止めると、オモラシをしたことをすぐに思い出してしまう気がして、がむしゃらにがんばりました。

 トイレで泣いてたところを見られたのは一生の不覚です。わざわざ私を見に来た他のクラスの子がいて、「もらしたのってどの子?」「あの子あの子」と騒いでいるのを聞いて、思わずトイレに駆け込んでしまったのです。



 ちょっともう、学校に来るの、無理かも。


 由香から手紙をもらったのはそう考えていた時でした。

 由香の小学校でのオモラシの話を読んで、オモラシについて「恥ずかしい」以外の感情が生まれました。


 あの後、少しずつ由香と話をするようになって、たくさん話をするようになって。私がやっとオモラシのことを話せるようになって、由香の胸でわんわん泣いて、頭をなでてもらって、ああ、もう今思い出して「わー!」と叫んでしまいたい。

 とにかく、私は学校に行き続けることができて、卒業もできそうです。


 ありがとう。


 感謝の気持ちは、書いても書ききれません。あまり書いてしまうとまた叫ばなければいけなくなります。


 私たちに未来があること。その未来を一緒に歩めること。このことを何よりもうれしく思います。これからもよろしく!



P.S. この手紙を私の前で朗読したり、罰ゲームとか言って私に朗読させたりしないでください。絶対にだめ!

   



有希より

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