まさかそんな。
「実は、希望は木津山市に引っ越したのよ」
「ひ、一人で……?」
そんなことがあるかと思った。せっかくここまで来たっていうのに、木津山市なんて隣の県じゃないか。
さすがに歩いていくには遠すぎた。
「希望ね、いっつも暮羽ちゃんのこと楽しそうに話してたのよ。口を開けば暮羽ちゃんの話ばっかり。暮羽ちゃんが誕生日プレゼントをくれた時なんか、何回も言ってきたんだからね。聞いたのに」
その時のことを思い出しているのだろうか。希望のお母さんはふふっと笑った。
誕生日プレゼントって、私があげたのはたしかメモ帳とシャーペンだったと思う。そんな凝ったものでもないのに、そこまで喜んでもらえていたのだと思うと嬉しくなった。
「あ、あたし木津山市に行きます!」
「え?」
とっさに口走っていた。
だって、ここで立ち止まってなんていられない。今すぐにでも、希望に会いたい。
今までの感謝を伝えたい。
希望のお母さんは、電車代を持たせてくれた。いらないと言ったけれど、持たされた。
二篠暮羽。友達に会うために大冒険です。
電車に揺られて約一時間。目的地の木津山市に着いた。
夕焼け空が広がっている。急がなければ、とあたしは思った。
しばらく歩いてから、人に聞いてみる。
「上川さんってここのあたりに住んでますか?」
「いやー、知らないなー」
「そうですか。ありがとうございます」
誰に訊いても、返事は同じようなものばかりだった。
どうしようかと途方に暮れていると、前から歩いてくる私服の女の子と制服の女の子に目が留まった。あのポニーテールは、まさか……。
「暮羽!?」
声が聞こえた。もう確定。
「まさか、希望!?」
感動の再会というのはまさにこのことである。抱きしめ合ったりはしなかったけど。
でも、横にいる制服姿の女の子は誰だろう?
黒髪ロングで美人さんだ。でも、目つきが鋭い。怖い、怖いから睨まないで。
「あ、純香ちゃん。この子は二篠暮羽って言って、私の前の学校の友だちだよ」
「お、おうそうか」
「初めまして」
美人制服黒髪ロングさんは純香ちゃん、というらしい。誰だ。
あたしの知らない人だ。希望が遠くに行っちゃったような気がして、ちょっぴりさびしかった。
「あたし、二篠暮羽です!」
「……片原純香です」
いわゆる、自己紹介が行われた。片原純香。まったく聞いたことのない名前だ。
純香ちゃんは希望に耳打ちしていた。な、なんですか。態度悪いじゃないですか。
本当にこの子、希望の友だちなの……?
「純香ちゃんって言うんだ! よろしくね!」
あたしはわざとらしく声を上げて、フレンドリーに接した。ここで負けてたまるか、というやつです。
あたしが手を出して握手を求めると、彼女は顔をひきつらせながらあたしの手をとる。シェイクハンド!
「……よろしく」
純香ちゃんは無愛想だった。
「でも、暮羽、なんでここに?」
希望の問いに、あたしは返答に詰まる。正直に希望を探しに来たっていうのはアレだしなあ……。
「あー……その、家出してきた」
「えっ!?」
希望は予想以上に驚いていた。嘘だから、ちょっと罪悪感。
それを隠すように、あたしは前髪をいじった。
「だから、希望の家泊めてくれない?」
「え、あー……」
ここでさっと帰るわけにはいかない。いろいろと、希望には訊きたいことがある。
だけど、希望はちらちらと純香ちゃんを見て、そして口を開いた。
「ごめん、うちは……。でも、暮羽、なんでここが分かったの?」
「そっかぁ。あ、それでね、あたし、希望が転校したのってもしかして前に住んでた木津山市かなーと思って!」
「あはは、暮羽勘いいね。会えてよかった」
また、あたし嘘ついた。たしかに、希望は前に木津山市に住んでいたけど、実際は希望のお母さんから情報を仕入れただけだ。
なんでとっさに嘘をついてしまったかは自分にも分からなかったけど、それよりも。
――――――希望、まさかあたしにこのまま帰れとは言わないよね?




