帰り道
とことこと家に帰るあたし。ああ、暇だなあ……。
家に帰ると、お母さんがすでに家にいた。お母さんは心配そうにあたしの近くに駆け寄って、「大丈夫だった?」と訊いてくる。
あたしは小さく頷くと、部屋に入った。
お母さんは、心配性だ。
分かってる。あたしのことを心から心配してくれているんだって。でも。
前までは全然心配するような素振りなかったくせにって思う。偽善者だ。
いいお母さんだってのをアピールしているようにも思えてくる。きっと本人はそんなつもりない。分かってる。でも、どうしてもそう思ってしまう。だって、あからさますぎる反応だから。
あたしは小さな部屋でうずくまっていた。こうしていると、あの日のことを思い出す。
――――無性に、希望に会いたくなった。
気がつけばあたしは、貯金を全部入れた財布と最低限生きて行けるだろうというくらいの荷物を持って家を出ていた。
目指す先は、希望の住んでいる場所。まずは希望が前に住んでいた家のご近所さんに話を聞いて、どこに引っ越したのかを知ることから始まった。
どれくらい歩いただろう。
ご近所さんの話では、佐伯市の隣に位置する高見市に引っ越したのだとか。
じゃあ、希望はそこの中学校に通ってるのかな?
丁寧な字で小さなメモに書かれた住所の場所に行くのにかなり時間がかかってしまった。やっと到着すると、緊張して震える手でチャイムを鳴らした。
『はーい』
女性の声だ。あたしは慌てて自己紹介する。
「あ、あの、佐伯市立第一中学校から来ました二篠暮羽ですが――――」
『ああ、暮羽ちゃん!』
あれ? とあたしは首を傾げる。あたしは、希望の母親に会ったことがあっただろうか。
しばらくすると、小柄の女性が玄関から出てきた。
「暮羽ちゃん、よくここが分かったわね! 希望に用があるんでしょ? 上がって!」
あたしはうなずいて、家に入らせてもらった。
「ここに座って待っててね」
希望のお母さんはあたしにそう指示すると、お茶を取りに行ったのか台所に入った。あたしは緊張できょろきょろと部屋を見まわす。希望はまだ、学校から帰ってきていないのかな?
それにしても、広いリビング。あたしの家も結構広い方だと思っていたけど、うちのリビングよりもっと広い。いいなあ。希望、こんなところで生活してるなんて。
あたしが歩いてこれたくらいの距離なんだから、家に呼んでくれたっていいのに。
しばらくすると、台所から希望のお母さんがお茶を持って出てきた。
それをあたしの目の前に置いて、クッキーを差し出す。
「これ、この間私が作ったのよ。よかったら食べて」
「わあ、ありがとうございます!」
早速そのクッキーを頬張ると、ふわっとしていてとてもおいしかった。
一つ食べ終わると、あたしは気になっていたことを訊いた。
「あの、希望はまだ帰ってないんですか?」
「ああ、それなんだけど」
希望のお母さんは、少しだけ微笑んでいた。
え、この展開って何――――?




