いじめ再発
万実が通話を終えて戻ってきてからも、気まずい雰囲気が続く。
結局最後の方はほとんど会話もなく、バスに乗って帰宅した。そのバスには、行きも乗っていたあの女性がいた。
月曜日。あたしと凛音で楽しく会話をしていると、万実がやってきた。途端に、キーンと耳鳴りがしそうなほど静かになる。え、なにこれ? なんか、デジャヴ……。
「よく普通の顔して学校来れるよね」
「いじめっ子のくせに」
女子の一部の言葉に、あたしは絶句した。「いじめは永久に終わらない。誰も終わらせようとなんかしない」。いつかに読んだ小説の一部を、思い出していた。
こうして、万実へのいじめが始まった。なんでこうなったのか、よく分からない。誰の差し金なのかってことも。
唯愛は風邪らしく、学校を休んでいた。あたしと凛音は、教室で行われるいじめを遠巻きに見ているだけ。加わって面倒なことになるのは嫌だから、ということで、いじめはしないでおこうと凛音と決めたのだ。
でも、凛音が黒幕じゃないのかとあたしは思っていた。昨日、凛音は万実の態度を嫌がっていたし。それに、唯愛は学校を休んでいるから、みんなに指示することはできない。そういえば、凛音はいつもより早く学校に来ていた気がする。あたしは、どうしても凛音が黒幕なのだとしか思えなかった。
あたし、最低だ。友だちを信じられないなんて。そして、友だちをいじめから救ってあげられないなんて――――。
「暮羽、大丈夫?」
凛音は、笑顔でそう言った。彼女の瞳は、丸くてかわいい。肩につくくらいの長さの髪を、耳の後ろで二つくくりにしている。つやつやしていて、とっても綺麗。ぱっつんにした前髪は少しだけ内側にくるっとカールしている。
それにくらべて、ぱさぱさなあたしの髪。身だしなみには、前は気を使っていた。みんなの憧れの的でいられるように。でも、いじめられだしてから、もうどうでもよくなって。トリートメントもしなくなった。その癖がいじめられなくなった今でも続いていて、整えていた髪はどんどんぱさぱさになっちゃったんだよね。うーん、虚しい。やっぱり、ちゃん整えた方がいいよねぇ……。
「だいじょぶ、だいじょぶ。てか、凛音、顔怖いよ?」
凛音は多分、自分でも気づかないうちに顔を強張らせていたんだと思う。硬い表情。やっぱり、凛音が黒幕なのかな……? このこと、唯愛は知ってるの?
「うそ、やだ。わたし、顔、怖かった……?」
「うん、超怖かった」
「うそっ! いや、違うんだって。これは、その、違うよっ? 決して、万実のこととは関係な――――」
凛音は、そこまで言って、口を閉ざした。唇をかんで、うつむく。万実のこと、って、いじめの話だよね? っていうことは、凛音がやっぱり、みんなにやらせてたってことなの!?
うっそ、女子って怖すぎじゃない? この間あたしに謝って反省したはずなのに、今度は違う人をいじめるなんて。万実にもあたしにもいじめられる要素はあったのかもしれないけど、それでも、いじめられていい人なんていないよ!
あたしはたしかに調子に乗ってた。万実も、ちょっと感じ悪かった。でも、だからってそんなに簡単に意地悪とかしてもいいの?
「やだー、万実汚い。ほら、これで拭けば!?」
「うわー、ちょっと朔良、これ、ボロ雑巾じゃん! 性格悪いな~」
ほこりまみれになった万実を取り囲む、数人の女子。今きゃあきゃあ言っているのは、朔良と心美だ。ボロ雑巾ってのは、いろいろ拭いた後の、もう捨ててもいいような汚れた雑巾。しかも、少し濡れている。残酷……。あたし、こんなことされなかった……。
「暮羽、わたし気分悪い。保健室ついてきてくれない?」
凛音が、あたしのカーディガンの袖を引っ張った。日焼けしたくないから、少し暑いけどいつも薄いカーディガンを羽織ってるんだよね。あたし、肌弱いからな……。
「うん、いいよ」
顔色の悪い彼女の支えになりながら、あたしはうなずいた。




