叶さん(ガクブル)
「はあぁ~……」
あたしは大きなため息をついた。最近やたらついてない。
昨日は体育の時間叶さんになんか敵宣言されちゃうし、謝ってもらえたのは良かったけど叶さんの取り巻きたち超怖いし、ガクブルだよ。もう。
「どうしたの、暮羽?」
凛音があたしの顔を覗きこみながらそう言った。あっ、上目づかいは禁止!
「なんでもないよ」
適当にあしらいながら、叶さんたちの方を見る。神崎叶、まだ十三歳。ふんわりパーマのかかった少し茶色い髪。目もうっすら茶色で大きくて、肌は透き通るように真っ白。おまけに睫毛はすっごく長くて手足も細いんだよね。背は小さい方だけど、そのおかげかふりふりした服が似合いそうだ。何気ない仕草とかもきっと計算していて、みんなから可愛いと思われたい気持ちがハンパなく伝わってくる。
やっぱりあたしと叶さん、波長が合うのかな……。お互いの心の声だけ読めるって感じ。だから叶さんは、あたしの本性ってやつを知っていたのかな? ひー怖っ。
「もう暮羽っ、水くさいぞ!」
背中から休に抱きつかれて、あたしはバランスを崩しそうになった。何とか持ちこたえて振り返ると、そこにいたのは唯愛。こいつは抱きつき癖があるというツワモノ。しかも振り落さないと降りてくれない。やだめっちゃ怖い。ってか、水くさいってなんのこと?
「唯愛、やめてよ。水くさいってどういうこと?」
あたしが地味に唯愛を押しのけながら尋ねると、唯愛はごめんごめんと謝りながらあたしの背中を降りた。唯愛はたしかに軽いからそこまで苦には思わないけど……でもやめて、体重を全く感じないわけではないからさ。
「だってさ、悩みがあるんでしょっ?」
「悩みぃ?」
ああ、あたしがさっきうつむいてたからか。別にそういうわけではないんだけれども。
でも、たしかに悩みを抱えていないと言ったら嘘になるよね。あたしは今とっても困っているんだから。もちろん、神崎叶さんのせいだけど!
「……絶対に秘密だよ」
二人はいつになく真面目そうなあたしを見て、顔を見合わせながらうなずいた。
あたしはこうして、二人に悩みの種を打ち明けることにしたのです。でも、ここであたしはもっと周りを見るべきだった。ちゃんと慎重に考えるべきだった。みんなの目を見て、おかしいということに気が付かなければいけなかった。なのにあたしは、また失敗を犯してしまったんだ。
――――あたしたちが話していたあの場所には、大切な人物がいなかった。一人、足りなかった。
万実がいなかったってことに、あたしたちは気付かなかったのです。
あっ、ほんとだ! と思っていただけたら嬉しいです
次回、万実ちゃん激怒です




