謝罪
万実たちは職員室に連れて行かれた。クラスメイトたちは席に座って静かに本を読んでいるあたしを遠巻きに眺めるだけで、誰も声をかけようとはしない。でも、いいんだ。いじめはなくなるから。
――――でも、それは間違いだった。
万実たちが帰ってきた。三人は静かにあたしを睨みつけたけど、あたしはにこっと笑って見つめ返した。すると唯愛が心底嫌そうに顔を歪めて万実に何かぼそぼそと言っていた。
凛音に至っては、ずっと目をうるうるさせてまさに悲劇のヒロイン。いやいや、どちらかというとあたしじゃない? 別に悲劇のヒロインぶりたいわけじゃないけど。
まあ、今回に関してはあたしにも非があったし、少しはいじめられても仕方ないのかなあ、とか考える。確かに、いじめてまではしていないけど、調子に乗っていたのは事実。みんなを大切にしてきたつもりだけど、それが逆に鬱陶しくなったんだと思う。すれ違いってやつだね。
「みなさん、おはようございます」
そう言って入ってきたのは担任の亘理先生。女性です。
「号令かけて」
先生の指示に、学級委員が立ち上がって号令をかけた。全員が座ったのを確認すると、亘理先生は唐突にいじめの話をし始めた。ま、まずいって。それはさすがに……。あたしが先生に話したみたいじゃん!
さっきの呼び出しのときも、三人は、ううん、クラスメイト全員思ったはず。『二篠暮羽は先生にいじめのことを自分のいいように話した』と。もちろんそんなことはしていない。でも、多分私の自殺未遂が先生たちの耳にも届いたんだと思う。あーなんか、すっごいことやっちゃったかもなぁ。大丈夫かな?
「――――ですから、いじめを見かけたりいじめられたり、あるいはいじめをしている人は先生に伝えて下さい。あなたたちのその言葉を、勇気を、私たちは無駄にはしません」
先生の演説がやっと終わった頃には、三人は顔面蒼白で震えていた。うは、いい顔。って、あたし悪女だな。人の不幸を喜ぶなんてさあ、悪女としか思えないでしょう。ま、いいや。心の中だけだし?
休み時間になると、三人があたしの席にやってきた。え、え、なになに? 先生いるよ? いいの? 仕返ししちゃってもいいの?
「――――ごめん」
それは、突然だった。驚いて、口を開けたまま固まる。
「は……?」
今さら、謝罪? 死んでたかもしれなかったのに? なにそれ、意味わかんない。ふざけんなって感じ。まず、本当にこの人たち反省してるのかな。先生がいるからとりあえずって感じじゃないの? そんなんだったらやだなあ。先生の前で「うちら反省してます」宣言じゃん。あーあー、あたしそういうの嫌い。
「今までしたこと、許されないかもしれないけど、反省してる。許されなくたっていい。でも、謝らせて。――――本当に、今までごめん」
万実はそう言いながら頭を下げた。えっ、これはもしや、本気? だったらこれを無視すると先生たちの矛先があたしに……。ま、まさかそれを考えてのこと!? 黒い、黒いよ……。
「わたしもっ……。ほんとは、暮羽ちゃんのこと、好きだよっ。でも、みんなが不満そうだったからって、調子乗っちゃったよね……。ごめんなさいっ」
謝るときも、凛音のぶりっ子は健在。いらいらするから、謝るときくらい普通に謝ってくれないかなあ。あと、あたしのこと好きだったって完全嘘ですよね? 嘘泣きもやめてくれないかな。
「……言いたいこと、わかってるよ。でも、言わせてくれるよね。……ごめん、反省してる。また、仲良くしてくれる?」
唯愛は目に涙を溜めてそうつぶやいた。え、また仲良くしてくれるの!? って、なんであたし喜んでんだ。
「……いいよ」
むすっとしながらもそう言うと、三人はぱあっと笑顔になった。う、な、なんかあたし嬉しい。
先生もにこにこしてあたしたちを見ている。ううぅ、死ななくてよかった! こんな幸せなことが待っているなんて、思ってなかったよ。まあ、いじめられていたのは確かだけど、あたしにも非があったんだしね、ほんと。だからこのことは水に流して差し上げましょう!!
「ありがとっ、暮羽!」
唯愛がぎゅうっとあたしに抱きついてきた。あ、暑いよ。離れろ、唯愛。
二篠暮羽、再びお友だちができました!




