知り合い
私が家に帰ると、珍しくお姉ちゃんもお母さんも帰っていた。しかも、見覚えのない淡いピンク色のスニーカーもあった。
誰か来てる? 誰だろう……。
ま、面倒くさいし部屋にこもっとこうかな。うん、それがいいな。
私はそっと音を立てずに自分の部屋に入ると、いつものようにカバンを投げ捨てた。ベットに倒れこんでしばらくそのままでじっとしていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「純香ちゃん」
私はガバッと起き上がった。私の部屋の入口に立っていたのは……幼馴染。
「希望……」
希望は私と同い年の子。希望が引っ越しちゃったから学校は小学校から違ったけど……。たまに会ってたかな。
って言っても、3年ぶりくらいだけど。
「久しぶり。元気だった? 1年ぶりだっけ?」
ちなみに、希望は超天然。
「3年ぶりだよ」
私がそう言うと、希望は肩をすくめて「そうだっけ?」と笑った。マジで天然。
「ところでさ、何で来たの?」
私がベットに座ると、希望も私の隣に座った。希望は私の手を握ると、珍しく小さな声でつぶやいた。
「何それー、来てほしくなかったってこと?」
「そうじゃないけど」
私は即答すると、後ろに倒れた。ふわふわのベットがベコッとへこんで、頭が下がる。
気持ち悪くなって私はまた起き上った。すると、希望はまるで私が起き上がるのを待っていたかのように話し始めた。
「萩香ちゃんから聞いたんだよ? ……いじめのこと」
萩香っていうのは、私のお姉ちゃんの名前。お姉ちゃん、希望に話したんだ……。ま、いいけど。希望なら別に、いいや。
そうだ、いたじゃん。私の事必要としてくれてる人。希望がいたじゃん。
「そーなんだ。なんて言ってた?」
私は普通な感じにそう言ってみた。そしたら、希望は驚いていた。
「なんで、そんな平気なの?」
なんでって言われても、答えようがなかった。だって、私は平気なんだもん。
別に、精神的につらい事されてないし。逆に、精神的につらすぎて自殺してる子たちに私の精神を分けてあげたいくらいだよ。私は全然つらくないからね。
マジでつらくなさすぎるし、どうせならこのつらくなさを分けてあげたい。
って、私上からすぎるよね。
ま、世界のいじめられっ子に直接言ってるわけじゃないから、いいかな。
「ねぇ、純香ちゃん、なんで平気なのって、聞いてるじゃない。なんで?」
希望はもう一度聞いてきた。意外としつこいんだな、この人。8年くらい前から知り合いだったけど……今気付いた。
今まで、そんな事されたことなかった。今までは、しつこくなんてなかったけど……。なんか、この人の本性をえぐりだしちゃったみたい。
「えーっと、なんかごめん」
私が希望の本性をえぐりだしちゃったことを思い出すと、謝らないわけにはいかない。すると、希望はきょとんとした顔で「何で謝るの?」と言った。
それからまたなんで平気なのか聞かれた。何この人、超しつこいんだけど。なんて、別に私には関係ないし、どーでもいいんだけど。
「もう、別にどーでもいいでしょ。それよりさ、お姉ちゃんなんて言ってたのかって、聞いてたじゃん」
私は突然そのことを思い出して、聞いてみた。
すると、希望はまるでハメられたバカのようにベットに顔をうずめた。
「そ、そうだったよね……。ご、ごめん。えーっと……」
希望は慌てて頭を抱えながら考え始めた。覚えてなさそうだな。
今日言われたんだよね? なら、こいつは最高に記憶力がないな。
「……なさすぎ」
私が心の中でつぶやいたはずのセリフは、なぜか声に出てしまった。
「ん? なんて言った?」
希望はパッと顔をあげてまたあのきょとんとした顔を見せた。この天然めっ……。
「別に」
私はそう言ったけど……この地獄耳。
「なーんーかー言ったでしょー!」
そして声がでかい! 鼓膜潰れるわ! 耳元で叫ぶんじゃないっつーの。
「う・る・さ・い!」
私が叫ぶと、希望は突然笑い出した。何だよこいつ……。ウザい、けど、憎むような感じじゃない。
ってことは、良いんだよね?