バカみたい
「――――い、た……」
掠れた声が出た。痛い、全身痛い。何でこんなことになってるの? あたしいじめられすぎてついに暴力受けたんだっけ?
――――違う、飛び降りたんだ。
あれだけ死のうと思ってたのに、結局あたしは死ねなかった。死ねなかったんだ……。あれだけ意を決して勇気を出して飛び降りたってのに……神様は残酷だ。ひどい、ひどすぎる。
死ぬ勇気があるならなんでいじめに立ち向かわなかったんだ。誰かがそう言う。なら、あなたがいじめられてよ。死ぬ勇気はあっても歯向かう勇気はないなんてダサいって言うんだったら、あんたが歯向かってよ。私のいじめを止めてよ。
無駄なんだよ。何言ったって通じない。「何言ってんの? そんな小さい声じゃ聞こえませーん」って言われて、またいじめられるんだよ、一人で歯向かったって無駄なんだよ。誰も相手にしてくれないし、人数で攻めてくる。「黙れ」「死ね」「さっさと消えろ」「学校来んな」って。
ならあたしが死ねばみんなが幸せになるんでしょ? 誰も傷つかないで済むじゃん。それが一番なんだよ……きっと。
「暮羽!」
大きな声が聞こえた。お母さん――――。
「なんでこんなことしたの! つらかったら教えてって、言ったじゃない! あんたそれで死んでたらどうしたっていうの!? そんなのやめなさいって言ったじゃない……死ぬなんて。死んだら何もできなくなるんだよ、分かってるの?」
お母さんは怒りと悲しみと苦しみで、どうにかしていたんだと思う。お母さんがあたしのことを心配してくれているのは分かる。でもね、こんな恥ずかしい娘なんていらないだろうって思ったんだよ。
もちろんいじめをしているやつらの母親だってこんな恥ずかしい娘いらないって言うかもしれない。でも、あたしだって嫌だったんだよ。いじめられてる、だなんて言いたくなかった。言ってしまえば、何か大切なものを失ってしまうような気がして。なんか、恥ずかしくて。
身内にいじめられてるなんて言えるわけないよ。だから死のうって思ったんじゃん。結局言えたけど、それもきっと希望のお陰なわけで。結局あたしは一人では何もできない、くだらない無力ない一人の人間なんだ。
――――ねえ、希望。今、どこでなにをしているの? 助けてよ。この、無力で一人では何もできなくて、近くに希望がいないといけないあたしを助けて。
わがままだっていうのはわかってるよ。それでも、あたしは希望がいなくちゃいけないんだ。早く、来てよ。助けて――――。
「ごめんね、お母さん」
そうつぶやいた。お母さんは泣き疲れたのかベッドの端に手を組んで置き、その上に頭を乗せて寝ていた。ごめんね、あたしのせいだよね。でも、もう一度言わせて。
「ありがとう」
お母さんが少し、笑った気がした。




