美冬の本気はいろんな意味で怖い
お久しぶりです。
頑張ります。
先生が何か言おうと口を開きかけたその時、美冬が突然叫び始めた。
「みんなひどいよ! いくら私のことが嫌いだからって、口裏合わせて私のことを嵌めようとするなんて!」
もうなんか私、疲れてきました。美冬、お前、一体何がしたいんだい? 私には君の考えていることが全くわからないよ。
いくら美冬が優等生だからって、先生がクラス全員の意見を無視して美冬をかばうわけ――――。
「そうなの!? みんな、どうして美冬さんのことをいじめるの?」
カバッタアアァァァ! かばったよ! かばいやがったよこの教師!
誰も美冬のことなんていじめてねえよ! むしろいじめられてんだよ! 現場見たわけでもないくせになんで断定できんだよ! こんのクソ教師があああぁぁ!
……うん、まあ、先生の言いたいこともわからなくもないけど。普通に先生の前でいい子ちゃんしてる美冬と明らかに反抗期な私だったら、たしかに美冬を選ぶだろう。
いい子な美冬がクラス全員にいじめられているのだ、と。一人がクラス全員を統治しているということよりも、美冬が一人いじめられているという方が可能性的には高いしな。
でも、実際は違うのである。いじめられてたのは私。私をかばったのは希望。そして今嫌味を言われていたのは香華。加害者は美冬さん。
まあ、私を全体的にいじめ(?)てたのは香華だけど、それは美冬が指示してた……ってことでいいんだよね? たぶんそうだよね。
と、私が自問自答している間に先生の話はどうやら進んでいたようだ。
「ちゃんとみんなで仲良くしないとだめよ? せっかく巡り会えたんだから、もっと大切にしなきゃ。もめごとばかり起こしても、つまらないでしょう?」
一番つまんねえのはあなたの話ですよ、せんせー。
っつーか、なに! せっかく巡り会えたって! できれば巡り合いたくなかったよ、特にあいつとかあいつとかあいつとか……。(ちなみに全部美冬)
「それじゃみんな、一時間目の用意してね。もうすぐチャイム鳴るからねー」
先生は爆弾だけ置いていってさっさと教室を出て行ってしまった。ちゃんと爆弾処理してから帰れよな!
どうすんだよ、教室の空気めっちゃ悪いよ……。
「ねえねえ、美冬めちゃくちゃ調子乗ってない?」
「ねー。なんか今まで誰も逆らわなかったから逆らえる雰囲気じゃなかったけど……」
「こうなったら美冬ももう終わりなんじゃない?」
教室の隅で固まっている数人の女子がこそこそ話している。いやこそこそじゃない。丸聞こえだ。お前ら、わざと美冬に聞こえるようにしてるだろ……。
でも、そんなことしたら証拠が残るじゃんか。美冬は「自分がいじめられた」という事実を求めてるんだからさ、ほんとに悪口言っちゃったら、そしたらうちらが悪者じゃん。それこそ、美冬を嵌めようとしてるってやつだよ。
あーやだ、もうやだ。ふざけんなばかやろー。揉め事とかマジでめんどくさいんだよこのやろー。
「ねえ、沙希ちゃん萌衣ちゃん野乃花ちゃん」
美冬は、さっき自分の悪口を言っていた三人の方に近づきながらその子たちの名前を呼んだ。全然聞き覚えのない名前ばかりだけど、この子たちも一応私のクラスメートらしい。
相変わらず、私はクラスメートの名前なんて覚えようとしない。っていうか、そんな覚えられない。よくみんな30数人の名前と顔一致させられるよな。
美冬の悪口を言っていた沙希、萌衣、野乃花とかいうやつたちは、固まって美冬を見つめている。いや、睨んでいる? 強気だな。こないだまで美冬の手下だったくせに。香華の手下=美冬の手下ってことでいいのならば、こいつらは美冬の手下だったはずだ。……手下って言葉あんまり良くない?
「……そんなこと、言ってもいいの? 3人のお母さんに、教えちゃうよ? 悪口言われたって」
うわあ。ひくわ。
自分の母親がクレーマー的な、まあ典型的な親バカだからって、よくそんなことが言えるな。そうか、美冬が好き勝手したって大好きなママンが助けてくれるからいいんだな。
よし、美冬。お前、小学校から……いや、人生やり直した方がいいぞ。このままじゃ本気でヤバい子入りだぞ。まあ、別に美冬がヤバい子になろうが何だろうが私には関係ないけどな。
美冬ちゃんは暴走民族です。




