これだから女子は②
「ちょうだいって……ただのトランプじゃん」
「何言ってるの純香ちゃん! これが見えないの!?」
暮羽が叫びながらトランプの箱に映っている女の子と、箱の右上に書かれている文字を指差す。
女の子のことは知らないけど、文字の方には『ピザ丸×RI☆CO』と書いてあったので、おそらく女の子の名前はRI☆COなんだろう。で、それがどうした。
「純香ちゃん、もしかして知らないの!? RI☆COだよ、RI☆CO! 今話題の、現役女子高生のシンガーソングライター!」
「はあ……」
知らねえよ。私はそういうの全然興味ない。
元気女子高生だかシンガーソングライターだか知らないけど、私は興味ない。暮羽がファンなのかは知らないけど。
「だから、お願い! 純香ちゃんが別にRI☆COのことを好きでもなんでもないんだったら、このトランプあたしに譲って!」
「えぇ~」
たしかに私はこのRI☆COとかいう子に興味はないけど、トランプは家にそれしかないんだぞ。他のトランプと交換だったらいいけど、あげるだけなんてそんな私が損するようなことはしたくない。
損得主義はケチだとか言うやつもいるらしいけど、これは普通に考えてるだけなんだから常識だ。
「じゃあ、違うトランプちょうだい。うちにはそれしかトランプないんだからね」
まあ、別にトランプなんて滅多にしないけどな。誰も一緒にやってくれないし。一人トランプもあるけど、私の趣味には合わない。というかまず、トランプ自体私の趣味ではないんだけど。
暮羽はしばらく考えてから、こう口にした。
「トランプは今持ってないから無理なんだけど……ぶっとびマウスあげる」
「は?」
ぶっとびマウス。聞いたことはない。
なんだそれ、おもちゃか? 嫌な予感しかしないんだけど……。ってか、なんでそんなもの持ってるんだよ。
「あ、リュックに入ってるからちょっと待って」
暮羽はそう言うと自分のリュックサックをあさりはじめた。
少ししてから、手のひらサイズのものを取り出す。彼女は笑顔で「これだよ!」と言って私たちに見せた。
「ぎゃあああああ!」
「……暮羽、ごめんいらない」
悲鳴を上げたのは希望である。
暮羽の手の中にあったのは、ねずみとしか表現できないようなねずみ……うん、つまりねずみだね。しかもかなりリアルだ。
「え、いらない? かわいいじゃん! これね、背中を押すと飛ぶんだよ! ほら!」
「ぎゃああああああ!」
暮羽がねずみの背中を押すと、気持ち悪い動き方でびょんっと飛んでゆき、着地したのは希望の膝の上だった。もちろん悲鳴の主は希望である。
「き、き、気持ち悪い! く、暮羽ってこんな趣味なの!?」
はあはあ言いながら希望は膝の上のねずみを払いのけ、暮羽に訴えた。しかし彼女は平気な顔で払いのけられたねずみを拾い上げ「かわいいのに……」となにやらつぶやいている。
怖いわ、暮羽。
ちなみに、趣味悪いなあ、と思ったのは秘密である。
 




