しみじみと、心惹かれる
「……てかさあ、おかーさんがさっきから私の事睨んできてるんだけど。騒がないでくれない?」
私は苦笑いでおかーさんを横目で見ながら告げた。なぜあの人は騒いでいる張本人たちではなく私を睨むんだろう。私関係なくない? むしろ、私巻き込まれてる方じゃない?
何なんだろう、あの人。まあ、前のお母さんのことはそんな覚えてないからあれだけど、親としてあの態度はないよね。うん。
差別はダメだと思う。
「うわっ、やばっ……。み、みんな、上あがろう! 純香の部屋!」
お姉ちゃんがみんなに指示をし出す。
……って、いやいや。おいおいおいおい。なんで私の部屋んだよ。嫌だよそんなの。
まだ部屋には「ドリームトラベル」が散乱してるんだぞ。せめてそれを片付けさせてほしい。というか、お姉ちゃん勝手だな。こんな人だったっけ?
まあ、前まで私のことガン無視だったから、普通に話しかけてくれるだけでもありがたいことなのかな?
「あ、そうだ。あたし、古文の宿題しなくちゃなんだけど……純香ちゃん、教えてくれない?」
私が片づけを終えてみんなを招き入れると、最初に部屋に入った暮羽がそう言いだした。子分? ……じゃなくて、国語の古文か。私苦手なんだけどな。
「どれ?」
暮羽の持っているプリントを覘いてみると、意味不明な言葉がつらつらと並べてあった。おお、これはこれは。……わからんな。
「ごめん、私パス。年上に任せる」
「え、純香ちゃん私は!? 私は無視なの!?」
希望がぎゃんぎゃん言っているが、聞いていないふりをする。お前に聞いたところで、どうせ希望だって分からないんだからその時間が無駄なだけだろ。
まあ、お姉ちゃんが古文を教えられるような人じゃないってことは分かってるけどね。光輝もあてにならなさそうだし……って、まともなやついねーじゃん!
「あのさ、この「趣がある」の意味を教えてほしいんだけど」
「趣?」
私は脳をフル活動させて考えた。それ、古文関係あるのか? と思いながら。
「……あ、しみじみと心惹かれる、じゃなかった?」
私がそう言うと、暮羽はああ! と納得したようにうなずいて、急いでそれをプリントに書き写していた。一応役に立てたから、よかった。
「それじゃ、そろそろあたし帰るね! あんまりここにいると、純香ちゃんのお義母さん怖いんだもん~」
光輝はそう言ってさっと立ち上がると、さっさと部屋を出て行ってしまった。自由人だな……あの人。
私も、一回あれくらい自由に生きてみたいわ。
「あ、じゅ、純香ちゃん。ほんとに、その、あたし……今日、泊まってってもいいの?」
暮羽が遠慮がちにそう尋ねてくる。別にいいけど、と返事すると、ほっとしたような顔を見せて「ありがとう」とお礼を言われた。特に私は何もしてないけどね。
というか、暮羽、ここに泊まってるくせに宿題とかする必要ないんじゃないの? なんで私に古文を教えさせた?
 




