いやーびっくり
「希望、暮羽!」
我慢できなくなって、私は耳線を外し鍵のついていない部屋のドアを開け叫んだ。廊下に二人の姿はない。あいつら、どこ行った……?
「のーぞーみ!」
しーん。
つらいな! 何の反応もないって、こうつらいものなんだな! いやー、びっくりびっくり!
……じゃなくてっと。
「希望~暮羽~」
名前を呼びながら廊下をうろうろする。お姉ちゃんにうるさいと言われたけれど気にしない。お姉ちゃんだって、毎日部屋でぎゃあぎゃあうるさいじゃん。何してんのか知らないけど。
「純香ちゃん!?」
後ろで、声が聞こえた。希望でも暮羽でもないような、ちょっと低めの声……?
振り向いた先にいたのは、頭のてっぺんで綺麗な黒髪をおだんごにした女の子だった。
「……普通、ここで出てくる?」
私はため息をついた。目の前には、悪びれる様子一切なしでてへぺろポーズ(ただしウザいだけ)をするおだんご女。
私は彼女のことを知っている。知っている、知っているけど……!
「やーもうかーわーいーいー! もう、ちょっと見ないうちにこんなに髪伸ばしてかわいくなっちゃってー! もう、純香ちゃんってばほんと天使! かわいいかわいいかわいいー!」
「黙れ、ウザい」
このうるさくてウザくて迷惑な彼女こそ、上川希望の姉、上川光輝である。
「いやー、まっさか、希望ってばこんなとこいたんだね~! お母さんから希望が純香ちゃんちいるって聞いたから、あたし飛んできちゃったよぉ~」
気持ち悪いほどの甘ったるい声で、光輝は言う。
「飛んできたんだ。へー。そうなのすごいねー」
「棒読みやめよう!? でもそういう純香ちゃんも可愛いんだよね~。あーもうマイエンジェルっ! あたしだけの純香ちゃん♡」
「もう、超ウザい」
このように、光輝さん超ウザい。もう、マジウザい。さっさと帰ってほしい。
彼女はそういえばこの近くに住んでいる。ちなみに、22歳である。希望と9歳差。
でも、こんな感じで精神年齢はかなり低めだから、私は普通に光輝と呼び捨てしているし、相手も何も言ってこないので気にしていない。
話を聞いたところによると、さっき着いたところらしい。なるほど、あいつら光輝と話してたから反応なかったんだな……。なんか腹立つな。
「ねーねー純香ちゃん、携帯持ってる? あたし、純香ちゃんとメアド交換したいな~」
「悪いけど持ってない」
嘘じゃない。持ってない。
パソコンのメアドは一応私のがあるけど、ほとんど使わないし、つか使ったことねえな。なんであるのか不思議なくらいだ。
「そっかぁ~。ね、ね、純香ちゃん。暮羽ちゃんとあたし話したんだけどさ、もしやだけど今日初めて会ったの?」
「うん、まあ」
正直にうなずくと、光輝は目が飛び出すんじゃないかってくらいの驚きを体で表現してくれた。うん、なんとなく分かったよ。驚いたんだね。目玉飛び出すくらいに。
「え、え、え、えええ!? じゅ、じゅじゅ、純香ちゃんどうしたの!? 今までは他人なんて興味ありませんみたいな冷たい子だったじゃん! 希望泊めてたのもびっくりだったのに、今日初めて会った子を泊めるって、とと、泊めるって、ええええぇぇぇ!?!?」
うるさいな、もう。私も驚きだよ。ちょっと前の、というか一週間前くらいの自分だったらきっと泊めてなかっただろうしな。
一週間で人は変わるんだね。すげえよ、うん。てか、すごく今日が長く感じるのは気のせいか。
「純香ちゃん、成長したね!!」
光輝が、私の肩を揺さぶりながらそう告げたときだった。
「光輝さん、廊下で騒ぐのやめてください」
じとっとした視線で光輝を睨みつけるのは、マイシスター萩香。この二人は何故か仲が悪い。二人は睨みあっちる。
というか、光輝お前22だろ。大人げないぞ、睨み返すなんて。
「なによ、萩香ちゃんに純香ちゃんは渡さないからね! あたしから純香ちゃんをぶんどろうなんて考えてないでしょうね! あたし、そんなの絶対許さないから!」
「光輝さん、純香は私の妹です。血のつながった妹です。どんなに光輝さんが純香を愛していようと、純香の姉は私だけ。オンリーワンですよ、光輝さん」
なんだこれ、なんだこれ。意味分かんない。
これ、私関係ないよね? そういうことでいいんだよね? 逃げていいよね?
よし逃げよう!!
「あっ」
「あっ」
二人の驚く声を耳に入れずに、私は一階に下りた。リビングに入ると、希望と暮羽の姿が目に入る。
「あ、じゅ、純香ちゃん」
希望は少しビビってるみたいだ。なんだよ、失礼だな。
「何、その顔。てゆーか希望、あんたのシスター暴走してんだけど。止めてよ」
「じゅ、純香ちゃんのせいじゃん」
「は?」
私は首を傾げた。私のせい? なんで。
まさかの新キャラに作者もびっくり。
ここからの展開どうしよう。
次回もお楽しみに~(*^_^*)




