仕切り屋さん
「暮羽って、仕切り屋さんかー。そういえば、会った時からそんな感じしてたわ。うん、だからだ。だから私、苦手だなって思ったんだよ」
私は棒読みでそう言った。本音である。
さっきの発言は、仕切り屋だなあと思った。それから、暮羽に対する違和感が苦手意識だったということに気付いた。これらはすべて本当のことである。
それから、動きにくいなと思ったらまだ制服だったことに気づいて、着替えようとクローゼットを開けた。さっさと楽な部屋着に着替えよ。
ちゃちゃっと着替えを済ませて再び輪に加わると、異様な視線を向けられた。え、なに? 私なんか変なことした?
なんか黙り込んでるから、私が雰囲気悪くしたのかもしれない。
「あ、ごめんごめん。話、続けていいよ」
そう言ったけれど、雰囲気の悪さはさほど変わらなかった。やりにくいなあ、もう……。
「ごめんごめん、ちょっと着替えてた」
「いや、それは見たら分かるけどさ」
棒読みで謝ると、暮羽は苦笑いしながら返事をしてきた。そんなあからさまに嫌そうな顔するなよ。
そして、これこそ問題発言だというようなことを、暮羽は口にした。
「純香ちゃん、意外とまともじゃないんだね」
小さな声だったけど、聞き逃さなかった。幻聴だといわれてしまったらそれは自意識過剰とかそういう類のやつなのかもしれない。でも、ちがうだろ。
「暮羽……泊まらせてやってるの誰だと思ってんの?」
私は立ち上がって、座っている暮羽を見下ろす。えらそうだったかもしれないけど、でも事実だ。反論は許さん。
「ごめんなさい、あたし、そんなつもりじゃなくって――――」
「じゃあどんなつもりだったんだよ!」
私はさっきから正しいことを言っているはずだ。なのになんで、希望は「お前が悪い」みたいな視線を私に向けてくるんだ。なんだよ、理不尽だな。
怒鳴ったりしてるけど、でも正しいよ。私が言ってること、正しいはずだよ。
現実逃避と言うことで、私は話を戻した。
「奇遇だね、私も同感だよ。暮羽はもっとまともなやつだと思ってた。けど、さすが希望の友だち。全っっ然まともじゃねーじゃん!」
「そ、そんなこと言われても、」
暮羽は、私の言葉を聞いてうろたえる。やめてよ、そんなびくびくしないでよ。私そんな怖い人じゃないからね。目つき割る異性で誤解されやすいけど、ほんとは優しい良い子なんだよ。
……って、自分で言ってる時点で台無しなのか。うん、そうだな。
そして、この会話の傍観者希望は、平然と髪を整えていた。私が言うのもなんだけど、薄情なやつだな。
「ひどいよ希望!」
「え、私!?」
最初の台詞は暮羽、驚いているのは希望である。二人の気持ちはよく分かった。
そりゃ、希望ひどいよな。そりゃ、意味分からんよな。だから二人仲良くさあ!
「だよね、希望ひどいよね。……だから二人とも、ちょっと頭冷やしてきたら?」
私は二人を部屋から押し出した。外からドアを叩く音や私の名前を呼ぶ声が聞こえてくるような気がするが、きっと空耳だろう。
私は外からの音に一切耳を傾けず、本棚に並べてある全70巻ある『ドリームトラベル』という漫画を読み始めた。全然面白くないのに、なぜか全巻揃えてしまった。まあ、暇つぶし程度にはなるだろう。
耳栓をして、1巻から読み始める。あー、ほんとこの漫画面白くねえな。