まあそんなわけで
ほのぼのしててすみません
そろそろ純香編、大事起こします
まあそんなわけで無事帰宅。
危なかった。美冬に殺られてしまうところだった。
大丈夫と言えば大丈夫なんだけど、でも、美冬ってやっぱり怖い。なんだかんだ言って権力持ってる気がするし。だから、本当はあんまりあの子とは関わりたくないんだよね……。なんで私、美冬と関わるようになっちゃったんだろ。
「おっかえりー!」
玄関に入った瞬間、お迎えの言葉と一緒に外国人かと疑うようなハグ。うおい。
「ちょ、希望、暑苦しい」
もちろん、そんなことをしてくるのはこの家に希望しかいない。彼女は別に日本から出たことはないってのに、なぜかハグが多い。うん? ハグってどこの風習だっけ?
まあ暑苦しいだけだから、そこまで嫌でもないんだけど……。いや、でも、暑苦しいのはちょっと嫌かなー。うんうん。……つーか離せ。
「ね、希望、離して」
「えっ! あーっ……ごめん」
希望は戸惑いながら私の体から手を離した。あーってなんだ、あーって。そんなに嫌そうにしなくても。
「そうだ。ねえ純香ちゃん、今日どうだったの?」
「は?」
今日? どうって、なんの話?
私はぽかんとしていたけど、すぐに美冬とのことだってわかった。あーあれか、みたいなノリなんだけどね。もう遠い過去の話だわ。
「別に、どうってことなかったよ?」
「……ホント?」
希望は、怪訝そうな顔で訝しむように私を見上げる。私の方が希望より背が高いから、希望は私を見る時上目づかいになるんだよね。対して私はちょっと見下ろす感じ。そんなに背が変わらないから、本当にちょっぴりなんだけど。
「ホントホント。なに? なにそんなに心配してんの? 美冬のことなら全然大丈夫だったよ」
くすくす笑いながら希望の頭をぽんぽんと軽く叩く。彼女は不機嫌そうに頬を膨らませた。
「子ども扱いしないでよ~っ!」
「あははは」
それがおかしくて、笑ってしまう。楽しい。いや、楽しいんだけど……。
「ねえ、そろそろ部屋に入らせてくれない? いつまで私、玄関に立ちっぱでいなきゃなんないのかなー?」
嫌味っぽく言うと、希望ははっと思い出したように目をまんまるにした。
「ごっ、ごめん! そーゆうつもりじゃなかったんだけどっ」
希望はぴゃっと飛び退く。いやいや、そんなにあからさまにしなくてもいいんだけど……。まあいいか。
遠慮なく希望がどいたスペースを歩く。その後を希望がとてとてとついてきた。なにこの小動物みたいな可愛さ……。うう、可愛い。
私はそのまま部屋に入ると、手に持っていたスクールバッグを投げ捨てた。もちろん教科書が入っているから、どさっと音がする。前までは教科書もノートも持ち歩いていなかったから、軽かったんだけどね。投げても、とさっ、みたいな。
「ねえねえ純香ちゃん。それで、美冬となんの話してたの?」
好奇心旺盛な子犬みたいにじゃれついてくる。ぱっちりおめめ、きらきら輝いてます。ってそうじゃなくって。
「やめろ。離せ触るな」
べたべたくっついてくる希望を引き剥がす。あーもう、暑苦しい。
引き剥がされた希望はなんかしょんぼりしてるけど、捨てられた子犬みたいな顔したって無駄なんだからな! ……つーかなんで私は希望を子犬に見立ててるんだろう? 謎。
「あ~……。ねえねえ、教えてってばー。ねー純香ちゃん、美冬となんの話してたの~?」
「普通の話」
「普通の話ってなに!?」
普通の話は普通の話だ。それ以上でもそれ以下でもない。っていうか、なんでそんなに希望は内容を知りたいんだよ……めんどくさいなあ。
しきりに「なんの話?」「なに?」「どういうこと?」ってそんなのばっかり言ってくる希望に、私は全部説明することにした。美冬と話したこと全部だよ? ……めんどくさいわー。
「だから、えーと……なに話したっけ?」
「ええ!」
ザ・ど忘れ。こ、こんなことだってあるさ! だってあいつの話長いんだもん!
「えーと……なんか最初香華がバカだよねーみたいな話になって、そのあと私がけなされて……おしまい?」
あれ、意外と短かった。まあいいか、短い方が説明しやすいし。
てか、そういえば私、あいつにけなされたんだった……! なんかわからないけど、思い出すと腹が立つっ! これも全部説明させた希望のせいなんだからな! うわーもう、イライラするーっ!
でも、そんな気持ちを顔に出すのは苦手。だから、心の中だけでイライラ。
正直言ったら、気持ちでもなんでも表面に出せる希望とかが羨ましかったのかもしれない。ついつい私は隠しちゃうから、損してる気がしてたんだよね。でも、まあ、それも個性ってことで。
「純香ちゃん……」
「え、あ。ハイ?」
希望がなんかドス黒いオーラをまとっている! 怖っ!
「美冬にけなされたんだね! そうなんだね!」
ものすごい剣幕で聞いてくる。おい肩を揺さぶるな。
「いや、うん。まあ、そうだけど」
「絶対あいつ許さない! 今からでも復讐だよ!」
「は!?」
ずるずると制服のまま引きずられていく。ちょっ、せめて着替えさせて!? 希望は早く帰ってきてたから着替えてるけど、私は制服!
ついた先? なんでここなのかと私も疑ったよ。なあ希望。
「ね、なんで家なの?」
「……」
そう、ここは、美冬の家の前。




