第3試合 ラウンド3 純香VS美冬
青木です
それなりに頑張ってます
静かに時が流れる。私も美冬も黙ったまま何も言わない。今なら、微妙な空気の流れすらも分かるような気がする。それくらい、感覚が敏感になっているのだ。
――――というようなかっこよさげな前ふりは終了して、と。
「それで、私に言いたいことはそれだけ?」
「うーん、それだけかなぁ? 純香ちゃん、その理解力0の頭で考えてみてよ~」
マジで殺したろっか。思わず、そう考えてしまった。おっと危ない本音が。
いや、でも誰だってバカにバカにされたらかなりムカつくよね!? こいつ、人間としての気持ちを忘れてしまったのだろうか。人を普通でバカにするその図太い神経、残念だけど私には真似できそうにないわー……。
「……悪いけど美冬、私急いでんの。言いたいことがあるならさっさと言ってよ」
まあまったく急いでなんかないけどさ。爆笑。いやーそれにしてもこの子、自分勝手にもほどがありますね。理解力0の頭で考えてみろ? 私がそれを言ったらブチギレるだろうけどなあ。想像できるよ、そんな美冬の顔。
「えー急いでるのー? なら、なんで美冬の話に付き合ってくれたのー?」
お前が断るなって言う威圧をかけてきたからだよ。私は力が抜けそうになった。なんなんだ、こいつ……バカか? うん、バカじゃないかな。ありえなさすぎるよ、こんなの。
「だって美冬が真剣だったから」
適当に(多分だけど)喜びそうな言葉を言ってやったら、美冬はオーバーに目をきらきらさせた。な、なんだよ気色悪いな。
「純香ちゃんって、優しかったんだねっ! 美冬、今まで誤解してた! もーっと怖い人なのかと思ってたの! でも、こんなに優しい人なら、美冬のお友だちになれるねっ♪」
「えっ」
なりたくない! 美冬のお友だち!? 死んでも断る!
そうだよどうせ私は怖い人だよっ。本当は別にそこまで怖くないけど、この性格と目つきと容姿その他もろもろのせいで、私は勝手に怖い人扱いされてんだよっ! うぅ、不憫……。不憫すぎるよ……。
「美冬、嬉しいなっ♪ 純香ちゃんとお友だちになれるなんてっ」
幼稚園児か、お前は。美冬はくるくると回ったりスキップしたりして、存分にはしゃいでいらっしゃる。もう一度言う、幼稚園児か。何だこのメルヘナー。いや、別にメルヘンな考えではないか。でもロマンチストというわけでもないし……なんなんだ。こいつの正体は一体なんなんだ。
そういえば、美冬の一人称は『美冬』だったんだ。知らなかった。てっきり『私』だと思ってたんだけど……。でもまあ、幼稚園児のイメージにはぴったりかな。自分を自分の名前で呼ぶのは、幼稚園の子たちはよくするもんね。
まあ、大きくなってからも変わらず自分の名前で呼んだり、もしくはあだ名で呼んだりなどしている子もいるけどね。人によっては学校では『私』で家では名前という感じで使い分けをしているらしいし。私はいつでもどこでも私だけどね。一人称が『純香』とか、黒歴史に認定されるだろ。
「それじゃあ純香ちゃん、ばいばいっ。純香ちゃん、急いでるんだよね? それじゃあね~!」
元気よく手を振る美冬に私もつられて手を振ると、美冬は笑顔になった。う、なんかデジャヴが……。香華の、香華の時と似ている! これはデジャヴだ、既視感だ。