純香&香華
暮羽編も頑張って書きます!
「ねえ香華」
「っわ、純香、ちゃん? 声かけてくるなんて珍しいね、どうしたの?」
平然とした顔で答える香華。これから恐ろしいこと聞くんだぞ。
「ねえ、教科書返してくれるって昨日言ってたよね?」
「あ、ごめん。持ってくるの忘れちゃった」
軽いなオイ! やっぱり返す気なんてさらさらなかったろ!
「明日は絶対持ってくるからっ」
うーん、女子ってこういうこと言って忘れてくるんだよな。手にマジックで書いてろ。そうしろ。
それにしてもすごいなあ、女子って。なんでいじめてた相手にこうやってにこにこしていられっかなぁ。私だったら絶対無理だな。いじめはしないけど、いじめっ子ににこにこなんてできない。……お前のことだよ、香華。
「ねえ香華、あんたさあ、なんで私をいじめてたわけ?」
うっ、と、痛いとこを突かれたと言うように香華は苦い顔をした。変な顔するな、お前が悪いんだぞ。分かってるのか、お前。
「そ、それは、し、仕方ないでしょっ、あんたが悪いの! で、でも今は私はもういじめたくないって思っているし、純香ちゃんのこと……好き、だもん」
おおお、生告白! ってなるかぁ! 百合じゃないか、それは。私にそんな趣味はないぞ。
「お、おう……? あ、ありがとう」
戸惑いながらそう言うと、嫌なものを見てしまった。香華が悶えていたのだ。きもい。はっきり言う、きもい。
「きもい」
「ひ、ひどいよ!? 私結構本気で言った!」
なんだろ、なんか楽しい、かも……? なんでだろう、なんか懐かしいというか、香華とこんなやりとりしたことあるような気がする。えっと……うん、気のせいだよね。
『なんか、きょーかちゃんって、ヘン』
『じゅ、じゅんかちゃん、ひどいよおぉ~』
『あ、わ、きょーかちゃん、泣かないで~』
……え? なに、このやりとり。純香? 香華? なにこの声、小さくてあどけなくて、まるで幼稚園児みたいなしゃべり方……。私と香華って昔は仲良かったとか、そんなこと――――。
「あるわけない……よ、ね」
私は乾いた笑いをこぼした。やばい、すごくなにか嫌なことを思い出しそうで。
「どうしたの純香ちゃん。大丈夫?」
そう言って私の顔を覗き込んでくる香華。こいつは、覚えてるのか? さっきの会話とか、いろいろ、今私が思い出しそうでやばすぎる嫌なことも。
「ねえ、私たち、去年から同じクラスになったんだよね? あれが初めてだよね?」
「え? え? う、うんそうだけど」
あたふたする香華に私は続ける。
「もしかして私たちってさ、去年会ったより前に話したり遊んだりしたことって――――」
「やめて!」
香華が、叫んだ。すごく嫌そうな顔をして、つらそうで。意味わかんない。何にそんなに怯えているのか、怒っているのか、それすらも分からない。なんでこんなにキレてんの?
昔の事を持ち出して何が悪いってわけ? 意味が分からん。
「あんたって、バカね」
彼女が笑った。何がそんなに面白いのかは分からない。ただ、ひとつだけ言いたいことがある。
「――――お前がな」