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教室 ~いじめ~  作者: 青木ユイ
純香編
17/109

水曜日

 ふわわ……。

 うぅ、眠い……。


 昨日と同じく、今日も盛大に暇です。

 ったくぅ、こんなにひまなら、こないだのいじめられてる子の代わりにいじめられてあげてもいいんだけどなぁ……。

 いや、それは言いすぎか……。だって私、そこまでいい子じゃないもんね。まあ、いじめには慣れたというか、もうどうでもいいというか、最高にほんと……あ、何考えてたんだっけ。


「っはくしゅっ」


 拍手? 何に? あぁ……くしゃみか。


「っはくしゅぅ」


 誰だよ、授業中に……。

 まあ、授業中にくしゃみをしてはいけないっていう校則があるわけじゃないんだけど。

 くしゃみをしているのは、おそらくクラスのムードメーカらしき、雪谷美冬ゆきたにみふゆとかいうやつかな。

 スカートの丈が膝より上で、完全に校則破りな人。彼女の周りにいる人は、大体がスカートをあげている。

 あんなことして、何が良いんだか……。私には、分からない。


「っはくしゅっ」


 ……またか。

 ったく、あんな薄いカーディガン着て来るから……。

 今は冬服と夏服の調整時期で、気温によって夏服と冬服、どちらを着てきてもいいという制度だ。今日は冷えるという天気予報を聞いて、私は冬服。

 大体の人が冬服なんだけど……彼女は違う。

 多分、彼女は可愛さ重視なんだろう。薄いカーディガンで、萌え袖とかいうやつをして……能無し野郎め。

 誰もが憧れる(はずの)ベージュのカーディガンを羽織って、震えている。私は冬服だから暑いくらいなんだけど。


「っはくしゅっ」


 同じようなくしゃみが続く。みんなうんざりしているが、誰も何も言わない。

 まあ、仕方がないだろう。美冬は、香華と同じくらいの存在感がある、かなり自己中心的で、さらにクラスの中心だ。

 誰も何も言わないに決まっている。言うとしたら、同じような立場の、香華くらいのものだ。


「っはくしゅっ、っはくしゅっ」


 今度は二連続。そろそろみんなが心配する頃だろうと、私は香華の方を見る。すると、まるで私の視線に気が付いたかのように、香華は美冬に声をかけた。


「美冬、大丈夫? あたしのカーディガン、貸そうか?」


 そう言って、香華は紺色の厚めのカーディガンを美冬に差し出した。


「あ……ありがとぉ、きょーかちゃ、っはくしゅっ」


 あ、れ? 美冬って、香華のこと、ちゃん付けで呼んでたかな……。まあ、どうでもいいか。私には関係ないし。美冬も香華も、そこまで仲良くなかったりしそうだし。

 争いが絶えなさそうな感じがするんだよね。あの二人。


 たとえば、どちらがこのクラスのトップかでまず争う。

 その次に、クラスメイトがどちらが一番か選ぶ。

 まあ、この時点でクラスメイトの私たちにとっては、ため息つきたくなるほど嫌な作業なんだけど。

 どっちを選んでも、選ばなかった方に嫌われるから。ちなみに、今のところはそんな面倒なことは起こっていない。……平和だ。

 噂によると、二人は小さい頃から家が近く、よく遊んでいたため、仲良しなんだそう。

 いや……まあ、信じるか信じないか、選択を迷いそうな情報なんだけど。


「くしゅっ」


 あれ……今度は、香華がくしゃみ?

 カーディガン貸したせいだろ、絶対。

 すると、今度は美冬が、さっきまで着ていた薄い・・カーディガンを差し出した。


「よ、良かったら、どうぞ……」


 美冬は、どうやら香華より立場が下のようだ。

 今日、たった今分かった。そうか……そうなんだ……。なんか、良いこと考えちゃった。

 あれしようかな。


 ――――二人の仲を悪くして、クラスの力を弱めよう大作戦――――


 クラスの力を弱める=いじめがなくなる


 っていう事だと思うんだけど……どうなんだろう。いや、まあ……いいか。どうでもこうでも、そうでもああでも?


 放課後、いつも通り香華に呼び出された。と言っても、強制呼び出しをくらうのは、結構久しぶりかな。


「何?」


 私が聞くと、香華は美冬から貸してもらったカーディガンのボタンをいじりながら言った。


「あんたも分かってるように、あんたへのいじめは終わった。だから、今まで預かってた教科書も、明日返す。その代わり……」


 ちっ……条件付きかよ。っていうか、いじめ終わったの、いつだよ? っていうくらいの、存在感のなさに、私、驚きました。はい。


「その代わり?」


 なかなか言わない香華に、いらだちを感じながら、私は聞く。


「その代わり、次のターゲットは、あんたの友達だから」


「は?」


 友達なんて、うちのクラスにいたっけな? っていうか、学校にもいないんじゃないか?


「誰のこと言ってるのか知らないけど、クラスに私の友達なんかいた?」


 すると、香華はすごく驚いていた。


「あんた……知らないの!?」


 知らないのって……知らないよ!


「知らない」


「あいつだよ。えっと、名前、なんて言ったっけ。何か変わった感じの読み方だったんだけど……のどか、だっけな……? うー……なんか違うんだけど、まあ、そういう名前の!」


 そういう名前の! って言われても。のどかなんて名前の子、知らないしなぁ。だから、絶対人違いだよ……。

 大体、肩ぶつかったのに、何も言わなかったじゃん。普通知り合いなら何か……言わないよね。

 こんな姿、見られたくないって、思ってるよね。自分だって知られたくなくて、びくびくしてたのかも。

 それにしても、誰だろう? 私、知らないって……。


「とっ、とりあえず! 明日、教科書返すから! じゃあね!」


「あっ、待って!」


 何となく、引き留めてしまった。私は香華の着ている美冬のカーディガンの裾をしっかりとつかむ。


「な、に……?」

 美冬から借りているカーディガンをのびのびにするわけにはいかないのか、香華はゆっくりとこっちに寄ってくる。

 でも、引き留めた理由はない。なんか、ぶん殴られそうだから、なんか適当に理由付けておこうかな。

 ……どうしよ。あ、そうだ!


「い、一緒に帰ろう! で、できたら……で、いいけど……」


 っていうか、むしろ断ってください。香華はしばらく考えてから、言った。


「……いいよ」


「いいの!?」


 私は全然よくないです! 今すぐにでも断ってください! 冗談だって言って、またいじめてくれても構わないから、一緒に帰るのは嫌です!

 ……なんで、こんなこと言っちゃったんだろう。


「あ、私、やっぱり急用を思い出したので、お先に帰らせていただきま……」


「一緒に帰ろうね?」


 こ、怖いんですけど……。うんとしか言わせないような目つきに、仕方なく私はうなずいた。

 地獄だわ、ほんと。

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