物音
「とりあえず、希望はさがってて。危ないから」
そう言いながら、私は破片を拾って捨てる。捨てるといっても、本当にそのままで、ゴミ箱に放り込むだけ。
でも、あとでゴミ箱に包まれるように入れてあるビニール袋ごと消すから大丈夫なんだよね、うん。
あ、消すとか言っても別にそんな、パンチするとかキックするとか、そんなバカみたいなことはしないからね?
やめてくださいよ、通報なんて。希望、絶対にやるなよ。
「あ、う、でも、純香ちゃんは危ないよ? だって、あの、素手で……」
なにそのしゃべり方……。緊張してる?っていうか、なんというか……。
「素手でも腕でも大丈夫! って、腕は無理だけど、あはは。えーっと、その、あー……」
ち、沈黙。私の心は沈没。って笑えないんですけど。お笑いセンスないな私。希望めちゃくちゃひいてるし。
うぅ、恥ずかしいよぉ! やばいわー、マジでやばいわー。
「純香、ちゃん……?」
あうあうあうあうあうあうあうあーーーー! ひ・か・れ・て・る。
あー、ほんとに何なのこれ。すっごいむなしいんだけど。
「ね、希望。学校ってどうなったっけ? てか今日何曜日?」
「わかんない」
あーもう! だめじゃんだめじゃん! 何しちゃってんの私~!
もうだめだよこれ。
とりあえず、ポイ捨てし終わったし、もういっかい寝たい。なんか眠い。うぅ、あくびが~。
「ふわあぁ~。っあ、ねぇ、希望。あのさ、お姉ちゃん、あのこと、なんて言ってたの?」
なんとなーく、気になっちゃった。あぁ、でも忘れたとか言ってたっけ。
「ごめん、私嘘ついてた」
は? 嘘?
私は希望の言っていることがよく分からなかった。嘘ってどういうこと? 何に向かってのウソ?
「私、萩香ちゃんから聞いたこと、ほんとは覚えてた。萩香ちゃん、純香なら大丈夫だって、笑ってた。だから私、そんなに心配じゃないのかなって、純香ちゃんがちょっとかわいそうだって思っちゃって。でも、私が何か言えるような立場じゃないから、言えなくて。言ったら、純香ちゃんが、傷つくかもしれないって、こわかったんだ」
はー、なんだ、そんなことか。なんとなく、安心した。それにしても、希望がそんなに悩んでたなんて、思ってなかった。ただの天然バカだって思ってたし。
めちゃくちゃ申し訳ないわ~。
「ごめん、なんか。私、希望の気持ち考えずに……」
「いいんだ。純香ちゃんが、それでいいなら」
希望のいつもの笑顔には、少し大人びた感じが混ざっていた。いつもはハイミルクの笑顔。
今は、ちょっと甘みが少なくなったミルク。ブラックには程遠いけど、でも、なんだか成長したっていうか、吹っ切れた、みたいな顔をしてる。
希望は、私が思っているよりずっと、強い。今日、そう確信した。
「ただいまー」
突然声が聞こえた。お母さんと、お姉ちゃん?
思った通り、二人が荷物を持って部屋に入ってくる。まったく、どこ行ってたんだよ。
「どこ行ってたんですか?」
希望が先に聞いてくれた。希望がいると、何かと便利だな。
「ちょっと買い物。ね」
お姉ちゃんが言いながらお母さんの方を見る。見たことのないような笑顔でお母さんがうなずく。むしろ気持ち悪いんですが。
まあ、気にしなくていいか。って、買い物に行ってるってことは、今日は土曜日?
そっか、そーか。なんだ、土曜日か。よし、寝よう。
私は希望がお姉ちゃんたちと話しているうちに、静かに上の部屋へ行ってもう一度寝ることにした。




