異常現象
やっと6時間目を終えて、私はダッシュで階段を下りた。
一日がすごく長かったから、早く帰りたいんだ。
それに……。
おかしい、絶対おかしい! あの香華が、あの香華が! 私に何もしてこないだとぉぉぉ!?
絶対おかしいに決まってるじゃん、薬物乱用でもしたのか!?
私はそんな気持ちでいっぱいだった。
もやもやしてくる私の心を映し出すかのように、雲一つなかった青空に灰色の雲が押し寄せてきた。
今にも雨が降り出しそうな、どんよりした雲が。
私は大きなため息をつくと、無意識に振り向いた。そういえば、朝のあの紙と人の気配……。何だったんだろう?
あんなヒント少ない文章しか読めなかったんだもん、内容が全然分からん! うー、いー、あーっ! もう、もやもやする!
必死にもやもやを取り払おうと首を勢いよく振った。でも、だめだ……。全然もやもやはいなくならない。
いつまで居候するつもりなんだろう、この厄介なもやもやは。やっぱり現実逃避が一番みたい。
私は何もかも忘れることにした。
家に帰ると、元気な声が私の耳に届いた。
「おかえりーっ! 私ね、私ねっ、えーと、とにかく来てっ!」
希望に腕を引かれてキッチンの方に向かった。なんか、甘いにおいがする。えーっと、うん、多分だけどなんとなく分かった。
そこには、私の予想通りのものがあった。
見るだけでむせ返りそうな、クリームクリームクリーム! なっ、何してるんだよ、希望……。
ため息をついて、今すぐこの場から離れようと方向回転したとたん、叫び声とともに、首らへんがなんか気持ち悪くなった。そこを触ってみると、ふわふわした泡みたいな感触……って、クリーム?
「うえぇぇー!?」
「ごめんー!」
犯人は分かってる。希望だ。
「希望……何でこうなったの?」
イライラで声が低くなった。それが怒ってると思ったのか、希望は頭を下げた。
「ごめんなさーい……」
さすがにやりすぎかと思って、私は希望の頭を撫でる。
「いいよ、気にしないで」
あ、だめだ。言いながら私は思った。
これじゃ、ただのいい人じゃん。私、全然いい人じゃないのにぃ。偽装してるじゃん。それってなんか、希望に悪いよねー。
私は撫でていた手をパッと離して、自分の部屋に戻った。やばいやばい。希望に変な尊敬されるの困るから、ちょっと嫌われる感じの行動しなくちゃ。希望の事だからきっと、嫌いにはならないだろうけど、ちょっとイライラするような……。
うーん、なんかあるかな。希望が嫌なこと……。
あ、アイス食べちゃうとか。お菓子好きだもんね。
よし、そうしよう。二次災害が来ないことを願ってね。
絶対お母さんかお姉ちゃん、怒るもんなぁ。でも、何もしなかったら希望に悪いし……。
って! こんなことで悩んじゃってる時点でもういい人になっちゃってるよぉ!
あぁ、私はどうすればいいんだっ……。でもなぁ、学校での異常現象の方も対策しておかないとだし。めんどくさっ。
やること多い! さらにもうすぐ期末テストだ。
やることが多すぎて、私死にそう。とりあえず希望の事は後回しだ。
テスト勉強ーっと。




