第二話
「ヨォシ!」
「ちょ――カルマ!」
その言葉を待っていた、とばかり走り出したカルマに声をかけるも止まらない。
「もう、こんな時ばっかり素早いんだから」
普段からこれだけ力を発揮していれば魔王の放った魔獣程度に後れをとることなどないだろうに。
「カルマって随分弱い魔王と戦ったのねー。あんなに弱いカルマが倒せちゃうんだもの」
そう、言いながらリリアが振り返れば不快を全身で表現する幼なじみ。
「……なんであんたが不機嫌になってるのよ」
いつも突拍子がないのはカルマだが、大概ライリも意味が分からないところで不機嫌になる。
ライリはカルマの消えた先を睨みつけると無言で歩き始めた。
「あのね、ライリ。男の嫉妬は……」
「やぁやぁ、抑制課のライリくんじゃないか」
(みっともないのよねぇ……)
声をかけてきたのはほか部署の勇者たち数人だった。
落ちこぼれ部署とも揶揄される抑制課とは違う、エリートコースを進む者たち。彼らはいわゆる勝ち組、なのだが――実際にはライリの方がより勝ち組であることが妬ましいのだろう。
実力にしても外見にしても、ライリは委員会の中でずば抜けている。勇者管理委員会で今最も注目されている期待の新人。
いつものように彼らは、抑制課に対する揶揄――その大半以上がライリへの侮蔑を続ける。
しかし、だ。
ライリが徐々に機嫌を悪くしていってるのがわからないのだろうか。まるで気づきもせず、抑制課を――マリエッタを非難し続ける。
「うーん、まるで思慮が足りませんねぇ」
「――っ!」
のんびりした声が聞こえて、リリアは肩をこわばらせた。
(気づかなかった……。てっきり、いなくなったかと)
カルマと同じく集団行動を好まないアララギのことだ、またすぐにいなくなっていると気にもしていなかったが今まで無言のままリリアたちについて来ていたらしい。
「抑制課はマリーが作り上げ、マリーが管理する部署。権利や立場もほかの課とは独立しています。抑制課は厭われるべき役割を担っていますが必要不可欠」
非常にのんびりとした声で話すアララギに真剣味は足りない。だが、話の内容は至って真面目だ。
「そも、委員会至上最強とうたわれたあのマリエッタ・リービスの所属部署。非難するのも大概にしなければ痛い目を見ることに……なりそうですねぇ」
そう言って、アララギ派いつも笑みを刻んだまま細まっている眼をライリたちに向けて僅かに開いた。リリアがアララギと話していた僅かなる時間の中、次なる展開が起こっていた。
「おい、ダサイとカスども。来いよ、おまえ等の遊び相手になってやる」
普段ならば意識を向けるまでもない、とまるで興味無げに躱すライリだが今日はそう言う気分でもないようだ。
ライリは不愉快に歪めていた口元を笑みの形へと変えて言った。どこまでも上から目線、俺様な物言いだ。相手は顔を真っ赤に染めた。