第二話
(ぁちゃー、あれ怒ってんのかしら)
マリエッタを天然、などと配置していないリリアはそう、マリエッタを評した。
スクリーン画像を次々と動かしていく様子は目元が常以上に鋭い。寄った眉もひどく刻まれており、不機嫌そのもの。
「こちらに表示した世界ですが、召喚勇者の人数とはずいぶん差があります。委員会が把握していない並行世界もありますが、それでも少なく見積もって勇者召喚がいずれかの地で度々行われていることでしょう」
魔王を倒すために複数回、同じ土地で召喚がなされている。
それが示すのは、勇者が魔王を倒しきれずに新たなる勇者が呼ばれた。もしくは、魔王が何度も同じ土地で復活した場合。
(それにしても、多いわね……)
勇者召喚をした並行世界の数だけでも十分に多い。それは魔王が並行世界の多くの場所で同時的に発生しているということ。魔王の存在数自体がはっきり、多いのだ。
「魔王勢力の拡大と強力化というわけね……」
アララギとライリ、両方の読みとも当っている。そして、それが一番厄介なことだ。
とはいえ、魔王の目的は世界の征服だ。大義名分が変わったとて、やることは一つしかない。
「差し当たり、十分の警戒をしつつも通常業務をこなすこと。それが上からの達しです」
「なぁんだ、結局いつもとかわんねぇじゃん」
マリエッタの言葉にそう、カルマは息をついて調子を取り戻した。
個体毎に能力特性や実力のことなる魔王に対し、勇者もまた倒すべき魔王毎に最も適した者が選ばれる。抑制課はその適合勇者と召喚の間に割り入るので、もちろん能力が適合しているかは関係ない。得手でない魔王とも戦うため、抑制課は常に危険に晒される。
勇者業そのものが危険ではあるが、得手は当然、勝ちを約束されたようなものである。抑制課の仕事とは危険度に大きな差がある。
「ま、今更って感じよね」
「所詮は魔王、畜生に武装した所で畜生に変わりない」
「いやぁ、魔王を畜生に例えるとは流石はライリ。若者の怖いもの知らずって無敵ですねー」
四者四様の意気込みにマリエッタは視線を柔らげた。
「では、私も少々用意がありますので、扉の前で待っていてください」