第一話
「俺一番乗りー!」
扉を跨いで、カルマは大声を上げた。
派遣先の並行世界から、己が所属する勇者管理委員会の空間に戻って早々、注目を浴びる。何事かと振り返る同僚たちの視線の中、時空の扉を潜り抜けたリリアはすぐさま一歩を退きたくなった。
(いつものことよ、いつものこと……)
そう、心中で呟き心を落ち着かせるとカッと目を見開き、カルマを探す。廊下の先にもはや小さくなった背中を発見した。
「カルマ、あんたねぇ!」
「じゃ、報告よろしく~」
手を振りながら駆けてゆくカルマ。今更何を言っても届かないだろう、とまた一つ溜息を吐こうとして、先に一つの溜息が聞こえてきた。
「……仕方ありませんね。私たちが事務処理をしますので、此処で解散にしましょう」
珍しく感情のこもった声音に、「溜息を吐くと幸せが逃げる」と自分を棚に上げてリリアは思った。
「あ、じゃあお疲れ様です」
「あなたは残りなさい、アララギ。明日の打ち合わせがあります」
解散の言葉に、背を向けたアララギに冷ややかなマリエッタの声。年齢はアララギの方が高いが、仕事の立場はマリエッタの方が上なのだ。首根っこ引きずられてゆくアララギには何の貫録もなく、万年平社員という印象が強い。アララギがリリアの上司なのは、リリアたちの所属する部署が万年人員不足という状況が作り出した奇跡以外の何物でもない。
(一瞬、マリエッタの視線が柔らかかったような気がしたけど……気のせいね)
「さて、ライリ。私たちも……」
振り返ったリリアが眼にしたのは、既に廊下へと歩きだしているライリ。
この自由気ままな構成は一体、どうにかならないものか。そう、本日数度目のことを思いながらリリアはライリを追った。