第二話
「では、失礼します」
抑制課課長であるマリエッタは議会からの退出を言葉にして扉を閉じた。
「全権武装の許可を取ったのかい?」
壁に背を預けていた人物が声をかけた。
「ヒューイ・ロンドルド」
やぁ、と気軽に声をかけるもヒューイの視線は厳しいものだった。
マリーとヒューイは親しい仲ではない。片やカルマの保護者。片やカルマの友人。それだけの関係であり、それ以上でもそれ以下でもない。
だからこそ、二人はある意味で対立しあう。
「力は使うためにあります。いつまでもお飾りにしておけるものではありません」
全権武装。
それはマリエッタ・リービスの持つ勇者としての力。最年少ながらも委員会の幹部として成り上がった所以でもある。
かつて、マリエッタが勇者として異世界を旅した際に身に付けた力であり、その強すぎる力は委員会に所属して後、封印されてきた。力の大半であるそれを取り上げられてなお、マリエッタは強かった。それは全盛期のマリエッタの力が誰にも比肩されることのない、無双であることを示す。
だが今、魔王の勢力拡大が見込まれる。力を秘するより、力を使うこと。その使用許可を議会に申請してきた。
「――カルマを、頼むよ」
くれぐれも、と言ってヒューイは壁から背を離した。
「もちろんです」
私のすべてをかけて。
「遅かったですね、マリー?」
アララギが声をかけてくるのに、マリーは他の三人の様子を伺った。
きゃんきゃんと吠えるよう、ライリに声を上げるカルマ。ライリは煽るよう、鼻で笑って見せる。そんな二人にリリアが拳骨を落とす。
「こちらはいろいろと大変だったんですよー?」
そう、言いながら心底愉快といった表情を見せるアララギ。
抑制課は個性豊かだ。普段からして仲が良いとは決して皆には思われないだろう。
けれど、
(これが私の世界。私の、守るもの)
「行きますよ」
異世界へと繋がる扉へ、マリエッタは一歩先に踏み出した。




