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赤鬼⑨

 目の前に火花が散った。

 何をされたのか咄嗟に理解できなくとも、目の前で起こった事に反応する。

 強く捕まれた腕を、強引に振りほどく。

 視界が定まらないが、頭突きをされたことは分かった。

 そして、空鬼が魔法を受けて何故意識を保っているのか、しばらく理解した。


 空鬼の唇からは、血が出ていた。

 咄嗟に、口内を噛みきり、痛みで意識をつなぎ止めたのだ。


――なんてやつ。


 サァクスの電撃を躱し、テッドルの停止の魔方陣を断ち切った。予想以上に、空鬼が連撃を見事に捌いた。だから、アルメスは焦った。このままでは、バレンティノールもやられてしまうのではないかと。

 この場にはまだ、ギルドマスターの息子であり、一番の実力者であろうカイサル。剣技に定評がある、シャルネスやシェアが健在だとしても、今の空鬼を取り押さえられるとは思えなかった。


 だからこそ、バレンティノールの加勢として、沈静化の魔法を放ったのだ。


 バレンティノールの闇の力は誰にも知られていない。だからこそ、アルメスの手助けは当然のものだった。

 空鬼がバレンティノールの闇の力に多少なりとも違和感を持ち、警戒をしていたからこそ、アルメスの魔法を防げなかったのだとしても。ここで、終わるはずだった。

 手加減のない沈静化の魔法。昏倒して起き上がれるはずもない。


 しかし、直前で魔法の気配を察知し、口内を噛みきることにより、意識の途絶を回避した!


 空鬼の纏う雰囲気が変化する。

 戦闘を継続するのではなく、見た者を皆殺しにするような、危うい気配へ。

 吊り上がった両目は座り、喜悦をたたえていた口元は血で濡れ、雄々しい角はさらに赤く染まっている。

 両手をだらりと下げて、構えを取らない。

 その姿が、不気味なほど静かだった。


――次の動作が読めない、


 今までの戦闘で、手を抜かれていたわけではないだろう。ただ、わかりやすい攻撃ばかりであったことは確かだ。ここに来て、構えを取らない姿勢に、対応が遅れる。

 ただでさせ、頭部に打撃を食らって、思考がまとまらないのに。

 バレンティノールは、鈍痛で散らばる意識をかき集める。隙を見せるな。姿勢を保て。少しでも、空鬼の注意を他にずらさないように。

 その努力は成功した。

 空鬼は、誰にも目をくれずバレンティノールに矛先を向ける。ただ、その動きに、ついて行けなかった。


「っ!」


 空鬼がはじめに、距離を無視してグライブ商会の息子の眼前に移動したことを忘れたわけではない。

 ただ先の攻防で、魔族の剣戟について行けなかった空鬼の姿を見ていたが為に、油断していた。

 油断なんて、すべきじゃなかったのに。

 

 目の前に、空鬼が、居た。

 すでに、刀は振り下ろされている。

 反応、できない。見ることだけが、現状唯一出来ることだった。


 冷たい刃に断ち切られる、前に(・・)体が地面に倒れた。


「!?」


 地面に叩きつけられ、呼吸が一瞬止まる。

 まるで、巨人に押さえつけられているかのような重圧。

 理解できない。この一日で、理解できなことが、あまりに多すぎる。

 切られていないことは、動く手足の感覚で分かった。しかし、現状空鬼に切られる以外で、どうして、地面に倒れ込むことになるのか。それも、力を込めても起き上がれない重圧がのし掛かっているのか。

 地面に頬をこすりながら辺りを見渡す。皆が皆、ここに集っている全ての人間が、魔族までもが地面に身を打ち付け、あるいは膝をついていた。

 

「くっ」


 顔を上げる。首が痛むが、そんなことを気にしている場合ではない。

 剣のみで攻撃をしてきた空鬼がここに来て、魔法を使ってきたのだと思った。押さえつけたまま、斬り殺して行くのではないかと思って、顔を無理やり上げる。

 見上げた先。


 空鬼は、赤鬼は、ぴたりと静止していた。


 その体勢に、表情に驚く。

 まるで、目の前から敵がいきなり姿を消したかのように、あるいは、予期せぬ事態に戸惑うように。


 きょとんと、していた。


 その状態で静止して、しばらくして辺りを見渡す。

 まるで、敵を見失ったかのように。きょろきょろ見渡し、不思議そうに首を傾げた。

 見えていない?足下に居るのに。真下は意識の外なのか?あれだけの不意打ちを悉く、見えているかのように防いでいたのに?

 そんなわけがない、はずだ。

 この場面で、もし仮に、体が動くのならば、空鬼を取り押さえることが出来る。なのに、力を入れれば入れるだけ、重圧が増していく。


「これ、は、重力、魔法、ではっ?」


 サァクスが声を上げる。彼もまた、地面に縫い付けられていた。


「じゅ、力、魔法っ、て、そんな、こと、だれが!」


 テッドルが苦しそうに呻く。

 重力魔法。古に失われた魔法。古い古い文献に、名前だけが記載されているだけの、眉唾物の魔法だ。この時代、誰も知らないはずの魔法を誰が使えるというのか。

 まさか、空鬼が?と思うが、困惑して居るだけの彼に魔法を使っている様子は微塵もない。

 誰もがどうすることも出来ない中、のっそりと裏路地から影が進み出てくる。

 その姿を目にして、この場に居る誰もが一瞬にして血の気を失った。


「き、メラ!だとっ」


 アルメスが顔色を無くす。それもそうだろう。いくら、【守護の結界】が破られたからといって、これほどの強力な魔獣が出現するはずがない。

 キメラの生息地は、ここよりも遠い地なのだから。

 しかし、ギルドメンバーは知っている。

 この街まで付いてきたキメラが居ることを知っている。まさか、キメラの知能が高く狡猾だとしても、この状況を待っていたとでも言うのか!


 現れたキメラは、空鬼を見ていた。


 そして、空鬼が、紅い瞳にキメラを写す。






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