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変調の兆し②

 夜が明ける。いつもの一日が始める。朝日も、青空もいつもと同じだ。

 変わらない日常の中で、いつも通りが過ぎていく。


「今日もよろしくお願いします」


「はい。任せてください」


 昨日と引き続きアンネさんは孤児院を留守にすると、昨日のうちから聞かされていた。

 子供達も分かっていたから、いってらっしゃいと手を振って見送っている。


「さぁ!あとかたずけと洗濯する組に分かれてね!」


 みんなのお姉ちゃん-アイゼルちゃんがそう声をかけて、子供達は楽しそうに駆けていく。


「クウキはお洗濯組ね!」


 アイゼルちゃんはそう言って、片づけ組の子たちと一緒に洗いものにとりかかった。

 子供たちの笑い声が朝の穏やかな時間に響いている。


 僕は庭に出て、大きな洗い物を片付けていった。

 玄関先を気にしながら、子どもとたちとたわいない話をする。今日も天気がいいね。雲一つもないよ。よく乾くね。おやつは何がでるかな?

 そんな当たり前の話。幸せな時間。

 この子たちのこれからに、必要な大切な瞬間だ。だから、いつまでも続いてほしいと願う。


「ルトくん」


 僕は、隣にいたルトくんに声をかけた。


「なんだ?」


「ちょっと、お客さんが来たみたいなので、僕見てきますね」


「分かった!」


 元気よく返事を返してくれた。昨日のこともあるからか、今日は素直に言うことを聞いてくれる。



 向かった玄関先には、見たことのある男がいた。

 

「お。偶然だなぁ」


 偶然?訪ねてきておいて、偶然があるのだろうか?

 昨日会った男が立っていた。確か、ドルツさん。いや、それは彼の父親だったっけ?

 名前を名乗らなかった男と、昨日と同じような取り巻きの男性たち。そして、頭一つ分背が高い男。ひょろ長いといっていいほど、細身だ。

 

「もしかして、いっつもあの化け物たちの面倒をみてるのか?疲れるだろ?今日ぐらい休んだらどうだ?」


 どうしよう。言ってる言葉の意味が一つも理解できない。


「おい!俺が優しく言ってやってんだろうが!!もういい!あんた。こいつも殺しちゃっていいぞ」


「おやおや。お話だと子供たちをということでしたが、彼もいいのですか?」


「ああ。構わない。こいつを殺して、死体を片付ければ、化け物を殺したのはこいつって、ことになるだろう」


「なるほど。天才的なひらめきですな。感服いたしました」


「そうだろう!」


 どうしよう。彼らが話していることが、一つも理解できない。

 けれど、ひょろ長い男は油断できないな。たぶん、さぁくすさんやテットルさんたちと同じだ。そんな感じがする。


「では。そういうことですので」


 にこりと、笑顔ではない顔を向けられる。どうしようか?まさか、玄関先で殺しをするわけにはいかないよな?


「おーい。クウキ。お客さんもう帰ったの・・・」


 僕が考えあぐねていると、ルトくんが小さな子たちとこっちにきてしまった。

 ああ、まずいな。


「おまえ」


 ルトくんも昨日の男性は覚えているだろうから、声が震えている。

 昨日の仕返しに来たと思っているのかもしれない。


「おいおい。混ざりものの癖にこの俺に向かって、そんなこと言っていいのか?こんな孤児院、潰すのなんてわけないんだぞ!!」


「そ、そんなこと、アルメス様が、ゆるさない、ぞ」


「医者ひとりに何ができる!医聖だともてはやされているだけだろうが!!」


 この、男もいい加減うるさいな。ほとんど、一人で話しているし。


「そうですな。たかが、医者ひとりでは、街は救えますまい」


「分かってるじゃないか、ルッツ。よし、料金割増しにしてやる」


「ありがたい」


 るっつ。分かりやすい名前だ。否。分かりやすい偽名だな。

 金銭のやり取りがあるのならば、相手は手練れだ。僕も気を引き締めないと。この世界の魔法で、来られたら厄介だ。


「クウキ・・・」


 ルトくんが不安そうな声を上げた。僕はいつもどおり、笑って見せる。ルトくんと周りの子たちが少しだけ、安心したように肩の力を抜いてくれた。

 ああ。この子たちには笑って居て欲しい。


「大丈夫です。アンネさんかアルメスさんに連絡を取ってくれませんか?」


 子供たちをここから、遠ざけないと。

 緊急時の連絡方法を子供達なら知っているだろう。僕も教えてもらったけれど、いまいちわからなかったんだよなぁ。

 分かった、とルトくんは小さな子たちを連れて離れてくれた。


「ちっ!ルッツ。早くやれ!」


 男の命令に、枝のように細い腕を正面に掲げた。その掌には、見たことがない文様が黒く刻まれている。禍々しいような、這いずるような文字だった。


「まず、中身を頂きましょうか?」


 ?どういう意味だ?

 男が伸ばした腕が半ばで、切断されたように消えた。同時に、胸に違和感。

 咄嗟に、視線を下げると、ずぶりと腕が、枝のように細い腕が僕の胸に埋め込まれていた。手首まで、突き刺すように。


 咄嗟に、後ろに下がった。

 痛みはない。ただ、喪失感があった。

 膝を曲げて胸に手を置く。鼓動が早鐘のように鳴り響く。けど、それだけ。出血はない。痛みはあるけれど、怪我はなかった。


 ただ、大切なものが、奪われたような。


「はは。これは、凄い!」


 隠していたものを無理やり、ひっぱりだされたような。


「こんなものを体の中に入れていたのですか?いやはや」


 この世界で僕だけのものが。


「心臓を抉り出してやろうと思っていたのですが。はは!面白いですね。あなた」


 唯一、僕だけに作られた刀が。


「それに、美しい。このような作りの武器は初めて見ました!」


 奪われた。喪失感。憤怒。そして、殺意。


「これは、私のものにしましょう」


 瞬間、目の前が真っ赤に染まった。





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