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鬼の道中②

あまり進みません。主人公最強設定になってます。

 逃げた先は、何もない崖だった。


「行き止まりだな」

 

 声をかけられる前に正面を向いていた空鬼の目の前に、男たちは囲みこむように並ぶ。逃がさないように。崖に追い込むように。

 追ってきた男の一人が、慎重に距離を計りながら話しかけた。

 侮れないことは先の攻防で解っている。下手な手も打たない。


「・・・・」


 空鬼は喋らない。

 話すことは、何もないのだから。

 静かに構える。


 男たちも構える。空鬼は無手だが男達は剣を素早く構えた。先の反省も踏まえ、油断ない構えを取る。


 緩い風が流れていく。草花が揺れ、太陽の暖かな光が降り注いでいる。


 果たして、どれほど時間が過ぎたか。


 先に、動いたのは追手達だった。

 焦燥にかられ、三人が飛び掛る。


「おい!?」


 一人が声を上げ、仲間たちを制止する。しかし先ほど、先に動いた奴らから殺されていったことを忘れている三人の男たちには届かなかった。


 空鬼が動く。


 振り下ろされた剣の腹に右手当て、受け流す。その隙に足を掛け、そのまま崖先に押す。その隙を突いてきた男の剣を脇に挟み、顔面を殴りつけ、後から来た男の方に押しやる。

 気を失った男を抱えて、体勢を崩した一人に脇に挟んだ剣を握り突き立てた。

 一気に三人を倒し、逃げ腰になっていた一人の腹部を蹴り上げる。そのまま空を飛んで、頭から崖下に落ちて行った。

 これで四人減り、残り五人。

 数の有利は利かないばかりか、瞬く間に殺される。

 レベルが違い過ぎたのだ。

 残った男たちは、距離を取りながら隙を突こうと伺う。しかし、空鬼は構えをとって待つ。

 微動だにすることなく。獲物が先に動く時を、待つ。


 男たちは退くこともできずに、焦燥だけが募っていく。


 -先に動けば負ける。

 -このままでは、らちが明かない。


 二つの思いが、五人の中に渦巻いた。

 葛藤が始まる。つまり、集中力が切れたのだ。


「っあ」


 ここで初めて、空鬼が先に動いた。

 開いていた距離などなかったかのように、肉薄する。初めに話しかけた男だ。空鬼はそんな認識はないだろう。

 手刀を正確に喉に決める。

 喉仏がつぶれ、首の骨が砕ける感触が腕に伝うが、そのまま腕を振り切った。そのまま、回転。蹴りを左隣りにいた男にかます。見事に爪先は米神(こめかみ)をとらえ男を地面に沈めた。

 その勢いのまま、目の前で顔を引きつらせる男に迫り鳩尾に抜き手を放つ。体がくの字に折れた男の手から、剣を奪い背を向け逃げている男に投擲する。狙いたがわず、腹部を軽々と貫き男は地面に倒れた。


 残りは、一人。


 最後の一人は、地面に座り込み小刻みに震えていた。

 恐怖ゆえか、絶望ゆえか。

 顔面は蒼白、歯の根は合わずカチカチと音を響かせている。汗が頬を伝い、目は空鬼から離せないでいる。


「・・・」


 空鬼は、男に近づく。

 近づいてくる空鬼に男は何もできずに、呆然と見ることしかできない。力の差は明らか、武器を持っていようとまるで無視。


「っ」


 空鬼が男の目前で屈みこむ。

 びくりと体を揺らし、顔を引きつらせる男。目はすでに死んだように鈍い光を宿していた。

 空鬼は口を開く。


「――――――」


「・・・・・・・は?」


 しかし、男は何を言われたのかわからず、素で聞き返した。恐怖で言葉を聞くところではない。


「手伝ってください」


 もう一度、空鬼はいい直す。


「・・・」


 男は何を言われたのか理解できずに、目を彷徨わせた。この場で何と答えればいいのかわからないのだろう。

 そんな男の心情をくみ取ることなく、淡々と空鬼は続ける。


「彼らを崖下に落とすのを手伝ってください。そうすれば、見逃します」


 その言葉に、一も二もなく男は頷いた。



 仲間を崖下に落とし終え、男は息も絶え絶えに座り込んでいた。時間はそれほどかかっていない。

 ひとえに最後に残った男の働きによるものだ。

 

「こ、これで、いい、ですか・・・・・?」


 震えながら男は空鬼を見上げる。

 顔には疲労が刻まれ、老け込んだように目が窪んでしまっていた。

 仲間だった者たちを崖に落とす作業は、男の中にあるわずかな良心を摩耗させ、体は恐怖でがたがたになっていた。

 そんな男に空鬼は。


「ありがとうございます」


 空鬼はへらりと笑って、最後に残った男の顔面を殴り飛ばした。

 気絶したままで、男は悲鳴もあげることなく崖下に落ちていく。


 空鬼は最期を見届けることもなく、街道に戻って行った。



 何とかなった。

 手練れ揃いだったけど、此方を甘く見てくれて助かった。真剣に相手をしていたら面白い戦いができたかな?

 ・・・・ダメ、ダメ。

 刀を出したらダメだ。もし出すなら、それこそ最後の手段。素手でどうにもならないモノがいたとき、それも人目が全くないことが前提で抜かなければ。


 --見られるわけにはいかない。

 --知られたくない。


 だから、それが出来ないときは、そのとき考えるとして。

 でも、武器は欲しいな。

 あ!お金持ってないや。見本でもらった貨幣が一枚ずつあるけど。でも、使い方はよく分からないし。何を買えるんだろうか。というか、何を買ったらいいんだ?旅の装いは異世界でも、同じようなものなんだろうか?

 この世界をもっと見ないと解らないな。

 でも、まずは金を稼がないと。


 稼ぐには、ぎるど?に行ったらいいんだったな。


 町はどっちかな?



 空鬼は先の戦いを早々に忘れ、街道の真ん中で迷っていた。


 道は単純なものだ。


 右か、左か、どちらかに行けば隣国にたどり着く。

 問題はどちらに行けば良いのかだ。

 看板があるが、簡単な読みしか教わっていない空鬼には何と書いてあるのかさっぱり分からない。


「うーん」


 何度見ても分からない。

 線と点が合わさった文字だ。五日程度で覚えられる言葉など、たかが知れている。

 文字だけ習っていたわけではないのだからなおさらだ。


 どちらに行けばいいのか。

 単純に馬車の後を追って行けばいいと思っていた空鬼にとって誤算だったのは、いくつも馬車が通った跡があることだった。

 休憩を挟んだところにも馬車の車輪の跡があったのだから、分かれ道が来たらどちらに行けばいいかわからなくなるのは当たり前だというのに。


 だが、正解は半分。


「う~ん」


 空鬼にとって異世界での生活は未知数だ。外にだって出たことはない。隣国への移動が初めてなのだから。だから、ここで旅人か商人が来るのを待つといった発想は出てこなかった。

 悩んだ末、空鬼は元の道を引き返して行った。

 来た道は一本道、ならば帰りも一本道。それなら、迷わない。





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