孤児院のお手伝い ➄
後はお肉を買って、帰るだけ。
帰ってからは、洗濯物を取り込んで畳んで。その前に、お昼ご飯を作らないといけない。
ああ。ご飯を食べたら、小さな子たちをお昼寝させないと。
そんなことを、話ながら帰り道を急ぐ。
買い物は楽しいといっていたけれど、やっぱり、周りの雰囲気はこの子らには冷たいものだ。僕も、子供達だけでお留守番させていることが心配で、ちょっとだけ早足になる。
お肉屋さんは目の前だ。
「すみません。シスターのかわりに来ました。これお願いします」
ここでも、アイラちゃんがメモを見せる。
「あいよ。いやー。さっき聞いたが、本当にお前たちだけで買い出しに来てるんだな。シスターがいないときは、そこの兄ちゃんに来てもらえるのかい?」
「僕はたまたまお手伝いに来ているだけなので、ずっとじゃないんですよ」
よかった、ここの亭主さんは気さくな人だ。
子供達にも、いい兄ちゃんがきてくれたな!と話しかけているし。子供たちも、古着屋さんに寄ったときのように、子供らしい笑顔を見せている。
いい人も居るのだろう。その反対に、悪い人は多くいる。
「買い物終了!これで、お昼と夕飯、明日の朝ご飯は大丈夫!明日には、いつも通り食べ物を届けてくれるから」
そう。いつもは、食べ物を孤児院まで届けてもらっているらしい。けれど、調味料やお肉なんかは、傷んだり、必要な量が足りなかったりするから、買い出しに行ってるようだ。
それ以外は、基本的に孤児院に備蓄されている。まあ、シスターが個人的に欲しい物は、子供たちを外に慣れさせるために、よく一緒に出掛けてるらしい。
これは、アイラちゃんが言っていたことだけど。
確かに、いつまでも孤児院の中だけで、生活していけるわけじゃない。
いつの日か、外に出て、働いて、生活していく。当たり前の、日常を送らないといけない。
それがいかに、難しくとも。
人が、どれほど、彼ら彼女らを邪険に扱ったとしても、それは、生きていく上で仕方がないことだ。
人と魔物は、相容れないものだから。
僕たちの世界のように。
だから、こういった輩は何処にでもいる。
「おーおー、混ざりものは元気がいいな。誰のおかげでここに住めてるとおもってんだ?」
そう言って、さっきから後をつけていた人間が目の前に来た。
周りにいる人々は避けるよ様に早足で駆け去っていく。
僕は一度目をつぶって、開ける。
「どちら様ですか?」
軽い、というよりも、薄っぺらい人間が、僕たちの前に両腕を組んで立ち塞がっていた。
「あ?どちら様だと?俺を知らないのか?へらへら笑ってしまりのねー顔しやがって」
酔っ払てもいないのに男はしつこい絡んでくる。他にも、三人ほどいるけれど、その誰もが男の後ろに居て、にやにやと笑っていた。
本当に誰だろ?アイラちゃん達を見ると、一様に縮こまっていた。
「ちっ!本当に俺を知らないみたいだな。何処の田舎からでてきた?いいか!一回しか言わねーからよく聞けよ!俺はグライブ商会のドルツ・グライブの息子だ!」
「・・・」
「謝るなら今のうちだぜ!寛大な俺はお前を許してやる!」
「・・・」
「どうした?驚きすぎて言葉も出ないのか?」
分からな過ぎて言葉が出なかった。
結局誰だ?彼の父親が、ドルツさんだということしか分からない。
「おい、俺たちを、通せよ」
僕が困っているのを見かねたのか、ルトくんが僕を庇うように前に出た。
密かに震えている。もしかして、以前にも絡まれたのだろうか。
「うるせーぞ。混ざりもんが!お前らが勝手に大通りを歩いてんじゃねーぞ!!」
ああ。この人間は、言葉が通じないのか。いや、言葉が分からない人間だ。同じ言葉を話してるはずなんだけど。きっと、自分が何を言ってるのかも、理解していない。
本当に困る。話が出来ないから、こういった輩は直ぐに手を出して来るぞ。
「俺の前に、汚い姿を見せるんじゃねーよ!」
ほら、大振りに拳を振り上げてきた。
分かり安くはあるんだけど、理解したくもない人間だ。
僕はルトくんの前に回り込んで、突き出してきた右手をとる。背中に捻りあげれば、呆気ないほど簡単に地面に膝を着く男。
「どなたか知りませんけど、子供に手を挙げるのは、大人として終わってます。僕たちには、関わらないで下さい」
男の耳にそっと声を落とす。
片手が荷物で塞がっていてよかった。そうじゃないと。
「お、おれに、こんなことして、ただで済むと思うなよ」
まだ喋れたのか。馬鹿は痛覚がないのか。それは、困る。もう少し捻りあげよう。
「っ!!!」
よし。大人しくなった。顔色も蒼白になったけど。死んでないんだ。大丈夫だろう。
「自分の名も名乗れない方に、何ができるんですか?この子らにもう、関わらないで、下さいね。後、迷惑な生き方は、親御さんに失礼ですよ」
痛みのせいか、呼吸が不自然になった所で、男の右腕を解放する。
その場に倒れ込む男。そんな男に、誰も駆け寄らなかった。
「もう大丈夫ですよ。帰りましょうか」
振り向くと、三人ともぽかんとしていた。
あれ?僕また何かしたかな?




