孤児院のお手伝い ④
お久しぶりの更新です!まだ、孤児院編続きます!
「あの。お野菜下さい」
アイラちゃんが声をかけた。けれど、店先にいた亭主は、僕へと視線を向ける。
それに、にこりと笑って「お願いします」と声をかける。
アイラちゃんがメモを渡す。その時、決して手が見えないように、服越しにメモを渡していた。
ローゼリアちゃんは、ここには何度も来ていると言ってくれたけど、彼の目線からは、親しげなものは感じなかった。
「ほら。今度はシスターと来るんだぞ」
亭主が野菜を手渡してくれる。僕へと。
でも、料金の支払いは、アイラちゃんがしてくれた。その時も、やっぱり服越しだった。
「ありがとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
三人同時に頭を下げる。礼儀正しく、シスターがよく躾けているのが分かる。けれど、これが、小さい子供のする態度だろうか?
古着屋さんでの笑顔がまるで、消えてしまった。
亭主は子供たちにあいさつすることなく、奥へと戻っていっく。
「シスターと来るんだぞ」
亭主の言葉も、子供たちのことを心配したわけではなくて、ただ、シスターと来ないとものを売らない、といった言葉だろう。
これが、現状。この街の。そして、この世界の。
どこでも、変わらない。
真実はどこでも、一緒なのだろうな。
「さぁ。次は、ソールト、カンダマントの二つね」
これは、香辛料の一種だ。売っている場所は、少し歩いていくとのこと。途中でお肉屋さんがあった。でも、それは最後だとアイラちゃんは決めているようで、素通りしていく。
お肉が痛むからだろうか?
そう思ったけど、どうやら、あまり治安がいい処に行くわけではないらしいと、通りを歩いて気づいた。
路地の端に、ごみが散乱していたり、烏が人を威嚇するように鳴いている。
「ここ、ですか?」
そこまで奥に来ていないが、シスターのような女性や子供が来ていい場所ではないとわかる。
「うん。このお店」
そういって、扉を押して入って行く。
普通のお店だ。戸棚が壁いっぱいに広がり、瓶詰された香辛料が所狭しと並べられている。独特なにおい。
「「「こんにちは」」」
三人が同時に声をかける。しかし、扉から一歩進んだところで立ち止まったままだ。
どうしたのか、そこから先へは入ってこない。
「珍しい」
そういって、奥から出てきたのは、老婆だった。
「アンネは、どうしたね?」
「お仕事です。私たちだけ、来ました」
老婆は、アイラちゃんの言葉を聞いて、咳を数回して。
「出直しな」
そのまま、奥へと戻っていこうとする。僕は咄嗟に、声をかけた。
「すみません。ソールト、カンダマントをお願いします」
「ほかに居るのかい?」
老婆は、目が弱いようで、僕のことを睨みつけるように見てきた。
「はい。シスター、アンネに頼まれてこの子たちと一緒に来ました」
僕の言葉を信じたのか、老婆はそうかいと一言言って右隣の戸棚へと向かう。無造作に、瓶を二つ取る。
「クウキさん。お金」
アイラちゃんが差し出した金額を受け取り、老婆へと渡す。
「ああ。確かに」
老婆は何度がコインを転がしたのち、納得したのかお金を懐にしまった。
「ありがとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
三人とも、丁寧に頭を下げて、扉から一歩入ったところから、動くことなく、外へと出た。
「今度は、アンネときとくれ」
僕は、その言葉に会釈だけ返した。
きっと、言葉を返すべきだったのだろうが、そうしようとは思わなかった。
「あとは、お肉ね!」
「肉だ!肉だ!」
「ルトはお肉好きだよね」
三人とも、いつも通りだった。空元気じゃない。無理をしているようには見えない。
つまり、これが、いつも通り、なのだろう。
いつも通り。日常。当たり前。
果たして、これが、当たり前でいいのだろうか?
彼らは、まだ子供だ。大人になったら、どうなるのか。ずっと、シスターやアルメスさんが面倒を見るわけじゃない。
彼らの未来は。
「そんなの」
僕が、考えでもどうしようもないじゃないか。
「?クウキどうした?」
「いいえ。けっこう、お買い物は時間がかかりますね。荷物も多いので、シスターとは大変じゃないですか?」
「そうなんだ!いっぱい持てないから、何回か来ることもあるよ。でも、クウキは重くない?大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。ルトくんも、アイラちゃんも、ローゼリアちゃんも、持ってくれてますから」
そういうと、ルトくんは嬉し気に尻尾を振った。アイラちゃんとローゼリアちゃんも、嬉しそうにはにかんでくれた。
人の役に立てて嬉しいと、そう素直に伝えてくれる。
この子たちは、素直で優しい子供たちなのに。
アルメスさんのような人が増えればいいなと、少し思った。




