孤児院のお手伝い ③
お買い物、お買い物!と、意外と機嫌がいいのはルトくんだ。
外に出るのが嬉しいらしい。
「ルトはお散歩が好きなの」
ローゼリアちゃんがこっそり教えてくれた。
狼だからかな?尻尾がフードの中でもわかるぐらい揺れている。
この子たちは、孤児院から出ることがないのだろう。僕がお手伝いをしているときも、庭先には出るけど、一人で玄関に行くことは無い。他人が入ってくる場所だとわかっているからだ。
シスターが他の人と話をしているときは、側によることもしない。
他人と違うとわかっている。
それは、どれほど息がしずらいことなのだろう。
「まず、どこに行きますか?」
ルトくんがどこかに駆け出さないように、手を握りながら、アイゼルちゃんに声をかける。
「まずは古着屋さん。小さい子たちに着せる服がなかったから」
「私たちのお古でもいいんだけど、ちょっと修繕できそうになくて・・・」
ローゼリアちゃんが、ちょっとだけしょんぼりして話してくれる。この子は、服の修繕が得意な子で、よく繕いものをしている。
「そうなんですね。可愛いものがあるといいですね」
僕がそう声をかければ、そうだね、とローゼリアちゃんが上を向いてくれた。
「着せるのは、男の子だよ。クウキ」
ちょっと胸を張るルトくん。どうやら、僕と手をつないでるのを気に入ったのか、ぶんぶんと腕を振ってくる。
それを見てローゼリアちゃんがルトくんの服の裾を握ってきた。
ルトくんと手をつなぎたいのかな?
「古着屋さんはすぐ近くなの。シスターとはお友達なんだって」
アイラちゃんがそういって、橙色の屋根の家を指差した。お店というよりも、お家のようだ。
あ。でも、看板はきちんとある。
「こんにちはー。アイラです!」
元気に挨拶をして入っていくアイラちゃん。
僕たちも後に続いた。
お店の中は、ちょっと狭いけどいろんな服や布がつるされていた。奥の机には、女性が一人。
「あら。こんにちは~。珍しいわね。アンネはどうしたの?」
「今日は、お仕事なんです」
「そうなのね~」
奥からでてきたのは、ふくよかな女性だ。どうやら、お腹には子供が居るみたいだ。
ゆっくりとした歩みで、今日はどうしたの?何がほしい?と子供たちに、優しく話かける。
アイラちゃんとローゼリアちゃんが、メモを見せながら話す。女性は、「そうなのね、わかったわ」といいながら、子供たちの頭を撫でた。
アイラちゃんとローゼリアちゃんは、フードは決してとらなかったけど、嬉しそう。ルトくんは僕の隣で大人しくしている。
大きなお腹ゆえに、ゆっくりとした動作ではあるが、危なっかしくはなかった。
子供たちと話しながら、お腹をなでて。
「もうすぐ生まれるのよ~。楽しみだわ~」
そういいながら、古着を何着か見繕ってくれた。
どうやら、孤児院を何度が手伝った事があるらしい。子供達のことも知っているから、誰の服が必要なのかわかってるとの事だった。
「お腹が大きくなって、お手伝いが出来なくなっちゃたけど、新しい人が来てくれて良かったわ~」
この子達をよろしくね。と頭を下げられた。
優しい人だ。魔物との混血である子供達を本当に心配している。
優しくて、稀有な人。
彼女のような大人がいてくれれば、この子達も少しは救われるかもしれない。
古着屋さんの次は、食材の買い出し。服は、ルトくんが背負っている。
いつも、運んでいるとのことだった。女性に荷物を持たせるなんて!と言っていたから、どうやらルトくんは男が荷物を運ぶものと思っているらしい。
「今日の夕飯と、明日の朝ご飯があればいいの。本当は、配達してくれる人が居るんだけど。今日と明日の朝は来れないって」
「そうだったんですね」
これも、もしかして魔物の異常繁殖が原因なのかもしれない。
どれだけの人手が、どれほどの規模で動いているのか分からないけれど。もしかしたら、そういった人達も駆り出されているのかもしれない。
街は平和そのものなんだけどなぁ。
「重たいものは俺に任せろ!」
ルトくんは相変わらず僕と手をつないで、ぶんぶん振り回している。
元気がいいのはいいことだけど、隣のローゼリアちゃんを少し気にかけて欲しいところだ。
こっそり、ルトくんと手を繋ぎたいか聞いたら、頬を赤くして首を横に振ってしまった。
もうちょっと、違う言い方がよかったかもしれない。
「どこから先に行く?」
「お肉屋さんは最後だから、まずお野菜だね」
アイラちゃんがこっち、と歩き出す。僕はその背中を追った。
古着屋さんに行くまでは感じなかった視線がいくつも、小さい姿に向いていた。




