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子供達との日常 -青鬼の次の一手ー

「馬鹿な!?」


 師匠が。あの、豪胆と尊大の権現と言っていい師匠が、驚愕の声を上げた。

 終いには、有り得ない、有り得ないと、部屋をうろつき出す始末。


 俺は、奥出雲から戻ってすぐに、師匠に事のあらましを、与えられた休みで見つけた、視つけ出した、一月かけて探し出した、駆けずり回った結果を報告した。鬼神である師匠ならば、他の神への伝手もある。そこから、異国へとつながる手立てがあるはずだ。

 空鬼へと至る手立てがあるはずだ。


「本当か?本当なのか?それならば、それならば!我らの力すら凌駕するというのか?否。否。そうではない、そうではなく。“神隠し”。異国の神による“神隠し”であるのならば。我らの領土が侵されたということではないか!」


 日の本の民を、我らに連なる眷属を攫った犯罪者ではないか!


「師匠。声を落としてください。いくら結界を張ってるからって、騒ぎすぎですよ。てか、落ち着いて。俺にも説明してください。心当たり、在るんですよね」


 そう、俺が宥めても、髪を振り乱して苦悶する師匠。話が進まないことに、若干いらつきなら、師匠が静まるのを待つ。

 空鬼の所在が分かったわけではない。依然、居場所は分からない。どこへ行ったのかも、どこへ攫われたのかも、判別できていない。

 日の本ではなく、遥か別の場所。どうすれば、到達できるかもわからない場所だ。


「ふー。済まぬ。我らを虚仮(こけ)にする連中を今まで野放しにしていたと思うとな。さて、そうと判れば。やるべきことを、しようではないか!」


「やるべきこと?」


 やるべきこと?とるべき手段の許可をもらいに来たのに、やるべき事とはなんだ?


「うん?何だ。そのために戻ってきたのだろう?知り合いに船を所有している者がおる。理由を話せば、快く応じてくれるだろう。それに、私の夫に」

「待ってください!船?船なんてどうするんですか?」


「どうるするもなにも、異国なのだろう?船で渡るしかないではないか」


 その言葉を聞いて、俺は間抜けにも口を全開に開けてしまった。本当に、この(ひと)は。


「師匠。俺の話を途中までしか聞いてないんですね・・・」


 確かに、異国と言った。情報屋とのやり取りをそのまま、報告したのだから、話のはじめだけを聞けば誤解もするだろう。

 でも、情報屋は。あの正確無比で知られる、春夏冬(あきなし)は。その異名-正鵠の春夏冬-通りの精確さを俺に示してくれた。


「いいですか。今度は、最後まできちんと聞いてくださいよ


『異国の神とは言ったが、精確には、他国の神ではないよ。

『つまり、この世界の神のなせる業ではない。当たり前だとは思うが、他国のものを攫うということは、自国に攻め入る隙を、理由を、大義名分を与えることになるからね。

『ばれなければいい、という話ではない。これは、過去に遡り、そのような事実があったと知られた時、問答無用で他の国を敵に回すということだ。すべての国が、すべての国の神々が敵に回るということだよ。

『故に、決して侵してはならない不文律、見えない理であり、厳守しなければならぬ決まり事だ。

『暗黙の了解、なんぞ、生ぬるい。絶対条約、といっていいだろうね。

 故に、攫ったのは、異国は異国でも、異世界の神だ』


空鬼を攫って、自分たちのいいように使役しようとしているんです。いや、空鬼が言いなりになるとは思えませんけど。だとしても、異世界です。空鬼の近くにいる人間が、あいつを戦う場所に追いやるように操作するでしょう。運命、なんてあるか分からないですけど、そんな風に、誘導することでしょう。神らしく、信託でも下しながら。あいつが戦場へ追い詰められる前に、空鬼を攫った異世界がどこにあるのか突き止めたいんです。だから、師匠」


 世界の境界を、境目を、飛び越えることができる神を、知っていたら教えてください。


☀☀☀


「おいこら!それは、俺がやるからお前はあっち!」


「え?でも、重いですよ?大丈夫ですか?」


「大丈夫だ!俺だって男だぞ!」


 そう言って、狼の獣人、ルトくんは僕を庭へと追いやった。自分で出来ると言っていたけど、ルトくんは体はほかの子よりも大きいけれど、まだ六歳だ。男といっても、男の子だ。

 現に後ろから。


「あれ?あれ?重いぞ?」


 重いといったのに。ただの丸太だと思って軽くみなしていたら、全然持ち上がらないと思う。

 孤児院の修繕に必要だと思って、近くの木材屋にお願いして、廃材だから持って行ってもいいというのをもらってきたのだ。それも、子供が動かすのにも苦労しそうな、大ぶりの丸太だ。僕が軽々抱えていたから、自分でも持てると思ったのかもしれない。

 けれど、ここで戻って手伝ったら、きっと癇癪を起さられるだろうな。

 どうにか頑張て、ルトくん。


「あ!クウキさん!」


 庭に行ったら、一番に声をかけてくれたのはアイゼルちゃん。緑の肌で、目が赤い彼女は、この施設では一番年上で十歳になるらしい。けれど、周りの子たちよりも小さい。


「もう、終わったの?」


 駆け足で僕のところに来てくれる姿はかわいらしい。

 初めて会った時、台所で僕を見て固まっていたことが遠い昔みたいに、今では一番懐いてくれている。そういえば、我に返るのも一番早かったのがこの子だ。

 みんなのお姉ちゃんとして、しっかり者だな。


「ううん。ルトくんにこっちに行けって追い払われちゃいました。洗濯は終わりましたか?」


「うん!これで全部!」


 庭に干してある、洗濯物を指さして嬉しそうに話してくれる。

 周りにいた子たちも、集まってきて、今日は早く終わった、綺麗に干せた、と笑いながら僕に報告してくれた。それが、褒めて、褒めてと目を輝かせるから、目線を合わせて、よくできました、偉いですねと声をかけていく。

 この子たちの警戒心が解け始めて、よく話しかけてくれるようになった。

 シスターは、三日目でここまで子供たちが懐くのは、僕の人当たりがいいからだと言われたけれど、たぶん、子供たちが純粋だからだろう。

 みんな優しい子たちだ。


「それじゃ、シスターの処へ行ってお昼ご飯のお手伝いをしましょう」


 はーい!と元気よく子供たちが、返事をする。

 お手伝いの前に、さりげなくルトくんを助けてあげないとなぁ。






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