表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/126

治癒

 医聖・アルメスさんを伴い宿まで戻る。

 すでに日は落ちていて、通りの明かりは少ない。普通であれば、酒屋が繁盛している時間帯なのだろうけれど、何かおふれでも出ているのか、戻る道中は静かとも言えた。


 宿に着き、部屋に入ると一目で容態がわかったのか、ギロリと睨まれ「下がれ」と言われた。

 看護師のせーてぃあさんだけ部屋に残して、全員が部屋の外に出た。何も言われなかったけれど、治療をしてくれるのだろう。

 見た目と言動は横暴そうだけど、根っこの部分は医者なのだろう。


 僕たちはそのまま部屋の外で待っていた。何時まで治療がかかるのかわからないけれど、一人も離れようとはしなかった。

 シーは両手を組んで、まるで祈るように扉を見つめていた。

 しゃるねすさんは、シーの肩に手を置いて心配そうにしていた。

 さぁくすさんの表情は仮面で見えないけれど、唇をかみしめて佇んでいた。

 皆が皆、心から祈っている。二人の無事を。

 だから、僕もこの場から動かずに、目を閉じる。


 どのくらい、たっただろうか?

 それとも、それほど時間は経過していないのかもしれない。

 扉が開く音と共に、目を開く。


 そこには、強面だけれど、瞳に安堵の光を宿した医聖がいた。後ろのせーてぃあさんは涙ぐんでさえいる。


「できるだけのことはした。今は意識はないが明日、明後日には戻るだろう」


 その言葉を聞いて、一番に部屋に駆け込むシー、その後に、しゃるねすさん、さぁくすさんが続いた。

 他のみなさんは安堵の息を吐きだした。


「二人の傷について、事情を聴きたい」


 緩んだ空気に鋭い声が飛んできた。

 まるで、尋問するような聞き方だけれど、医聖の言葉はもっともだろう。この街での、魔物大量発生と、キメラが街の近くに現れたことは無関係ではないはずだ。


「ああ。もちろんだ。ことと次第によっては、俺たちも協力したいと考えている」


 カイサルさんがそう切り出し、別の部屋で話をしようということになった。もちろん、ギルドの人たちはついていった。僕は新人で、カータさん達が心配だったから残ったけれど。

 部屋に入り、穏やかに眠っているカータさんの顔を見る。

 血の気がもどり、いつでも起き出しそうな気さえする。もちろん、満足な食事をしていないから、多少やつれているけれど、危機は脱したとみていいだろう。

 隣の、団長さんも穏やかな顔をしている。厳ついけれども。


「これで一安心だな」

「はい」


 レンさんがそう言って、僕の肩を叩いた。それに、笑って応える。

 そう。これで一安心。

 明日、もしくは明後日にはきっと起きてくれるだろう。


 ◆


 しばらくカータさん達の回復を喜び、部屋を出た。

 医聖にお礼の言葉と謝礼金をとの事だったんだけど。


「つまり、魔物の異常行動(・・)ではなく、異常繁殖(・・)だと言われるのか?」


「残念ながら」


 部屋から漏れ聞こえたのは物騒な言葉だった。

 異常繁殖?

 しゃるねすさんとさぁくすさんの雰囲気が変わった。シーも体を強張らせている。けれど、このまま部屋に入らずに立ち聞きするわけにもいかず、ノックをして入る。


「一段落した後で悪いが、アテナの暁にも参加してもらうぞ」


「もちろんです。狼の森でも似たような状況でした。あの時は繁殖の手前で討伐出来たのですが」


「ここでは、悪化している。悪化する一方だろう。見つけたときは、繁殖前で数を揃えて討伐したのだ。ただ、完全では無く、数を残したのがまずかったのだろう、気がつけばこの有様だ」


「完全討伐しては、自然のバランスを崩します。当然の判断でしょう。問題は短期間で異常繁殖が立て続けに起きている事だと思います」


「そればかりか、他でも同じ現象が見られる可能性があることだな」


 難しいことを話しているのだろう。僕にはよくわからないけど、大変なことになっているようだ。

 この状況のなかで治療をしてくれた医聖は、本当に優しく頼もしい人なんだろう。態度は横暴だけど。


「治療はすんだ。代金として討伐に参加してもらうぞ」


 お願いではなく、決定事項のようだ。

 それ程、切迫しているということだろう。態度と言葉遣いが上から目線なのは、常日頃こんな態度だからだろうなぁ。


「もちろんだ。しかし、治療のお代も払わせてもらう。ギルドとしても捨て置けん」


 カイサルさんがそういうと全員が頷いた。討伐と治療は別物だといって、きちんと謝礼金を支払い、討伐にも参加するとのことだ。

 異常繁殖の問題解決には人数と武力がいるのだろう。それならば、治療費は別で支払い、討伐はギルドとして参加するべきだと主張するカイサルさん。

 カイサルさんのこの様子なら、カータさんと団長さんが起きたらすぐにでも参加すると言いそうだ。


「金はそういらないんだが」


 稼いでいるといいたいのか。お金は受けとろうとしない。


「そうだ、金の変わりに一人、孤児院を手伝え」


 孤児院?確かに人手が足りていなさそうだったけど。


「先ほどお前達がいた孤児院に、一人手伝いに行ってほしい」


 その医聖の言葉に顔を見合わせるギルドのめんばー。どうしたんだろうか?


「行ってほしいと言われても、子供のお守りは、」


 カイサルさんが難しそうにつぶやいた。その言葉に男性陣は頷いている。シーやしゃるねすさん、せーてぃあさんも微妙な顔だ。


「看護師なので多少の心得はありますが・・・」


「負傷者の手当が出来るものは欲しい。戦力になる者に抜けられては意味がない。だからといって、少女では孤児院の仕事は負担が大きいだろう」


 成るほど。もっともだ。


「じゃあ僕なら手伝えます」


 僕が手を挙げると、睨まれた。何故?


「話が聞こえなかったか?戦力は減らしたくない」


「?ああ。僕はまだ駆け出しです。ギルドに登録したのも最近ですし、カータさんに稽古をつけてもらってます。それに、子守の経験は多少ありますよ」


「そうなのか?」


 カイサルさんに確認を取られた。基本簡単に他人を信用しない人なんだな。


「そうだ。子守の経験があるのは知らなかったが。まだ新人だ。剣の腕前もここにいる者の中ではシーの次ぐらいじゃないか?」


 カイサルさんの言葉は信用出来るのか、わかったと頷いている。

 詳しくは明日との事で、今日は孤児院へと戻ると言って帰って行った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ