奇妙な同伴者
お久しぶりです!更新があいてしまいすみません。これからも、地道に頑張っていきます!
今日は、曇り空。
雨は降りそうにないが、晴れそうにもない。薄い雲がたゆたい、日の光を遮っている。怪我人を運ぶにはいい天気かもしれない。
日差しが強すぎれば汗をかいて、水が必要になる。雨だと体温を奪われる。
今日の天気は、ちょうど中間。できれば、距離を稼いでおきたいところだ。
みんなそのことをわかっているのか、進む速度は心持早め。
軽く話しながら、でも気を抜くことなく進む。
「なんか、このまま平和に着くといいなぁ」
「そうですね」
僕は、レンさんと並んで歩いく。
御者のコルネスさんと一緒にさぁくすが座り、シーとしゃるねすさん看護師のせーてぃあさんはカータさん達の様子を見守っている。容体が変わればすぐさま分かるようにとのことだ。
午前中に出発して、早くもお昼に差し掛かりる時間。
レンさんの言うとおり、このまま平和に過ぎればいい。いいと思う。けれども、
「どうした?なんか気になることでもあるのか?」
「え~と・・・」
気になること。あるにはあるが。けれども、気に掛けることもないかもしれない。でも、
「言ってみろよ。そう難しそうな顔をされちゃー気になるだろうが」
そうだな。その通りだ。
「むずむず、するんです」
「は?」
「なんだが、こう、背中がむずむず、するんですよね」
「・・・・それって、どういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ。そして、あんまり、いい予感はしないんです」
そう。
出発する時は、そんなこと感じなかった。なのに、ここに来て気になりだした。
落ち着かない感じ。違和感。
「えーと。お前の勘って、当たるのか?」
「どうでしょう?」
元の世界だったら、青鬼に話せば何かしら対策を立ててくれた。けれども、僕自身、この感覚が何に由来しているのかわからない。気配には聡い方だけれど。
「でも、良くない方の勘はよくあたりますよ」
「当たるんだ。やっぱ」
こくりとうなずく。
殺気ではなく、敵意でもない。
後ろを振り返るが、別に何かが居るわけでもない。いや、隠れているのだろう。でも、どうして?
しっくりこないまま、僕たちは昼食を摂るため、馬車を止めて料理へと取り掛かった。
◆
午後に入っても、嫌な感じはなくならならい。
着かず離れず。
ひたひたと、ついてくる感じ。かと思えば、感じない瞬間もある。まるで、
「あ。この先、道が細くなりまっせ」
テッドルさんが声をかけて、みんなが馬車に近寄る。
僕もカータさん達が寝ている方の馬車に寄ると、シーがぴょこっと首を出してきた。
「どうかしたの?」
「この先の道が細くなっているようです。揺れないとは思いますが、気を付けて下さいね」
「分かった」
そう頷いて、シーは馬車の中に戻った。
テッドルさんが言っていた、細い道が見えてきた。その瞬間、
「待ってください」
僕は声を上げて、後ろを振り向く。
そこには、何もない。何もないけれど、何も居ないわけじゃない。
居る。
確かに。
「どうしたん?」
テッドルさんが声をかけてくる。
「すみません。みなさんは先に進んでください」
この細い道に来るまで、気を抜かずにいたおかげか、距離ははっきりとわかっている。着かず離れず、ついてきた気配が、ここに来て剣呑になった。
襲うつもりだ。
「や、でも、え?」
突然のことで、混乱しているのか、なかなか進んでくれない。
時間をかけると、相手に猶予を与えることになるから早く決めてほしい。ここで迎え撃ってもいいけれど、僕たちはカータさん達を背にしているんだ。
戦いの条件としては、不利。
「おう。お前らは先に進め、俺とこいつでここに残るわ」
「カイサルさん。それは、」
体格の良いカイサルさんが僕の隣に立って、指示を出した。彼が実質的な頭だから、みんな言うことを聞くだろう。
そろそろ出発しないと危険だ。
「なんだよ。俺はギルドマスターの息子だぜ? 腕のほどは知ってるだろ?」
「そうだね。カイサルが居るなら安心だ。任せたよ」
しぇあさんがすぐに頷いてくれる。
「ああ。できるだけ、急いでくれよ。ただし、カータとヴィシェスの負担にならないようにな」
「分かった」
話は済んだようで、みんなが早足に進んでいった。その中で、僕とカイサルさん、そしてもう一人。
「?あんた残るのか?」
「おう。俺も腕には自信がある。それに、二人にもし何かあったら、俺が伝令で走ってもいいだろ?」
「そうだな」
そう言って、レンさんが残ってくれた。
嬉れしいけれど、なんだが、僕を信用していないような視線を送ってくるのはどうしてだろ?
「そら、お出ましだ」
車輪の音が遠ざかるにつれて、姿を現したのは。
「殺り逃したキメラか・・・」
そう、キメラ。
獅子の頭に、虎の胴体、蛇の尻尾に、蝙蝠の翼。
四肢逞しく、獰猛に牙を剥く獣。
瞳には知性の光。頭は一つしかないが、体躯が以前見たキメラよりも二回りほど大きい。
「はっ!こりゃ、厳しいかもだな」
そういって、カイサルさんが斧を抜く。
両手で扱わなくてはいけないほど大きく、刃が独特にうねっていいた。殿には球状の棘がついているから、打撃用としても使えるようだ。
「だな。こいつがこの先の道で襲ってきたら、俺らは谷底に真っ逆さまだな」
レンさんは短剣を抜いて構える。隙のない構え。
僕も、二人のように剣を抜く。カータさんに稽古を付けてもらった成果を出す時だ。
この世界の身のこなしは学んだ。
この世界の剣筋は学んだ。
この世界の、戦い方は学んだ。
たぶん。大丈夫。うまく、紛れることができる。そのために、剣を教えてもらったんだから。
元の世界の技術は使えない。
元の世界では、人の輪に入れない者は、人に紛れられない者は半人前の証。ここでは、気にすることでもないのだろうけれど、でも、人を敵に回したいとは思わない。
だから、うまくやろう。
「俺が出る。お前らは、援護を頼む」
「ああ」
「はい」
援護、援護かぁ。援護なんて青鬼以外でしたことないんだけれど。
僕たちが、それぞれ位置に着く。もっとも、即席の陣だ。粗末なところが目立つ。
目の前のキメラは、燃えるような赤い瞳で、ひたりと僕たちを見ている。
探るように。
窺うように。
覗き込むように。
「?」
おかしい、敵意がない。
気配を察した時は、襲い掛かる手前の剣呑な気配をしていた。でも、今は、感じない。
ゆらゆらと、蛇の尻尾が揺らめく。蛇にも目があって、こちらを見つめてくる。おかしな感じだ。
ゆっくりと、キメラが僕たちに近づく。カイサルさんが、腰を落として、斧を両手で構える。まっこうから、迎え撃つ気だ。
でも、僕とレンさんは顔を見合わせる。レンさんも敵意がないことをわかっているんだろう。どういうことだ?と目で問いかけてくる。僕は、首を振るしかない。
ころり。
目前で、キメラが転がった。
別に、斧で切り捨てたとか、どこか別の場所から攻撃を受けた。わけではなく。自発的に地面に身を投げ出した。仰向け、というのだろうか。無防備に急所をさらけ出している。
敵意がない。
当たり前だ。
敵対する気などなく、こちらに無防備にも身を投げ出し、腹を出して、喉をゴロゴロと鳴らしているのだ。僕たちと戦う気もなければ、害なす気もない。
「えー、と?」
「どういうことだ?」
「さぁ」
三者三様に、言葉を紡ぐ。それを目の前のキメラは理解しているのか、お座りの姿勢になって、頭を下げてきた。
「良い子みたいですね」
「「そうか?」」
利口だと思うけれどな。
赤い瞳には知性がある。探るような、窺うような、覗き込む目線は僕たちを見極めていたのだろう。理解して、行動している。
「それで。お前、俺たちを襲いに来たんじゃないのか? 仇だろ?」
カイサルさんが声をかける。
まるで、聞き入っているようにキメラは大人しい。言葉はわかるのだろうか?尻尾をゆっくり動かしている。数秒の沈黙。
「わん」とも言わないキメラ(「わん」と吠えるのか知らないけれど)。
知性があるのは垣間見えるが、何を考えているのかさっぱりわからない。
「あー。どうすっかなぁー」
カイサルさんが頭を抱えた。このままにしておけないのか、だからと言って、敵対する気もない魔物を切り殺すこともできないらしい。本来なら、見つけた段階で討伐対象になるとしても、だ。
基本、根が優しいのだろう。
「連れて行ってはどうですか?」
「できるか! 連れて行ったとしても、町に入る前にはどこかに行って貰わないといけない。変な情がわいたら別れづらくなるだろうか!」
優しい人で、動物が好きなのかな。情がわくって・・・。見た目は魔物で、おそらく魔物の行動しかないだろうけれど、「討伐しなくてわ!」とは考えないのだろうか。
「じゃあ、どうする? このまま、ここに置いていくってーのか? なんかあったらどうする?」
「そういわれてもだなぁ」
カイサルさんが困り果てた表情で悩みだした。
まぁ、このまま置いて行ってもきっとついてくるだろう。それに、レンさんの言う通り放っておいて、他の誰かを襲わないとも限らない。そうなれば、責任を負わされそうだし。
こうなったら――
「着いてきますか?」
僕がそう尋ねると、
「GAU」
「来るそうですよ」
僕への返答は、元気良く返してくれた。やっぱり、「わん」とは吠えないようだ。
カイサルさんをみると呆けた顔をしていたが、すぐに我に返り顔を赤くして怒鳴ってきた。
「おい!勝手に決めるな!」
「でも、ここに残しておくよりもいいと思うけれどなぁ」
レンさんが助け舟を出してくれた。
もっともな意見に、さっきと同じようにカイサルさんが頭を抱える。
「・・・・連れて行っても、どうしようもないだろうが」
しばらく、押し問答が続いたが、結局はカイサルさんが折れて、キメラは僕たちについてくることになった。
なかなか先に進みませんでした、、、。




