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お久しぶりです!今回の話は少し長めですので、よろしくお願いします。

「はぁ~。話があるからって残ってたけどもよ。それ、俺に話していい話なのか?」


「え?問題ありますか?」


 僕はカータさんたちの現状と、でるすさんの事情(メアリーさんの事情ではあるけれど)を話ただけなのに、どうしてか呆れられてしまった。


「別にさ、お前とずっとこの街で会えるとは思ってなかったけれど。会えない理由が ―ディルスの事情は別にいいけども― キメラに襲われた仲間の治療のためって、それ普通に話しちゃダメだろ」


「?どこが駄目なんですか?」


 治療が必要だし、その分手伝いもある、その理由を話してはいけないなんておかしいんじゃないか?


「いや。仲間のために店に出れないっていうのは良いよ。そこを責めたりしねーよ。ただな、この間も言ったと思うんだが、キメラのような危険極まりない魔獣が森に潜んでて、そんで、討伐の末に(・・・・・)重傷者が出た(・・・・・・)ってことを俺みたいな一般人には言っちゃダメだろって話」


 なんだ、そんなことか。相変わらずレンさんは心配性だな。

 僕は、笑顔で答える。


「大丈夫ですよ。レンさん以外には言ってませんから」


「・・・・・それは、ありがとうよ。信頼の証として聞いておく。でも、俺も、一般人、だからな?」


「そうでしたね。えーと、すみません?」


「・・・・・おう」


 レンさんは何だが諦めた顔をして肩を落としてしまった。何か落ち込むようなことでも言ったかな?本当のことを言っただけなんだけれど。


「レンさんも、この街、何時か出るんですか?」


 ふと疑問に思って僕は尋ねた。


「ああ。だろうな」


「何時とか、決めてるんですか?」


「いいや。別に」


 レンさんは何でもないように答えた。それはそうだろう。旅人で根無し草だと言っていた。特に目的もなく、世界を旅しているのだと。


 でも、それは嘘だと思う。


 目的もなく旅をするには、世界は広すぎる。彼は、何を思って旅をしているのだろう? 何のために旅をしているのだろう?


 でも、僕にそれを聞く資格はない。自分の事を偽りだらけにしか語れない僕に、誰かの秘密を聞き出す資格はない。


「そう、ですか・・・・」


 でも、この世界で友達と呼べる人を見つけたような気がする僕にとっては、この別れは哀しいものだ。


 りくしらたちとは虚像の関係だった。

 お頭さんたちとは共存の関係だった。

 カータさんたちとは唯の恩人の関係だ。


 対等に語らえて、対等に過ごせるのはレンさんだけ。今のところは、だけど。

 でも、これから先きっと、ここまで付き合える関係を築ける人はなかなか居ないだろうなと思う。


 でも、同じように旅をしていれば、また会う事もあるだろう。その時は、今みたいに語り合えたらと思う。



 翌日、さぁくすさんは起き上がれるようになった。完全回復には、まだ時間が必要だろうけど。


 でも、カータさんと団長さんはまだ意識は戻らないようだ。ギルドからテットルさんやしぇあさんがお見舞いに来てくれた。彼らも少なくない怪我を負っていた。


 今日は彼らも交えて、これからの事について話し合いが開かれる。

 教会の一室を借りて集まった。僕の知らない人もいるけれど、ギルドの関係者なのだろう。軽く自己紹介をされた。

 一人は女性の魔術師さんで、一人はギルドマスターの息子さんだといわれた。偉い人とも人脈があるなんて、カータさんたちの実力の高さをここで改めて知った思いだ。


 そんな風に周りを見渡すと、結構な実力者が集まっているなぁ。


「ここでの治療は限界があります」


 まず、さぁくすさんが口火を切る。顔色も戻り、声もしっかりとしている。容体は、だいぶ良くなったようだ。でも、やせ我慢じゃなければ良いんだけれど。


 さぁくすさんの話にみなさんが頷く。


「なら、二人の回復に期待するしかないのか?」


 しぇあさんが困ったような顔をして問いかける。軽い見た目に反して、いろいろと気にかけてお見舞いの品も持ってきてくれた。彼に続いて、テットルさんが話す。


「そんなゆうちょな事言ってられますかいな。早めに手を打った方がいいと思いますぅ」


「でも、聖職者の力をこれ以上借りても結果は変わらないと思うわ」


 しゃるねすさんが声を上げると、すかさずギルドマスターの息子さんだという男性が話す。


「牧師クラスではなく、司祭クラスの者の力を得られればなぁ」


 どう違うのか、わからないけれど、もっと実力者にカータさんたちを見せなくてはいけないのだろう。

 でも、みんな硬い顔をした。


「教会が簡単に派遣してくれるとは思えないな」


「金を積めばあるいわ、やけどな。それにしても期待は薄いかもやが」


 しぇあさんとテットルさんの会話を皮切りに、みんながみな難しい顔で意見を出し合う。

 

 僕は、この世界の知識や常識に疎いから、意見を出すことはできない。ただ黙って聞いている。

 僕の隣にはシーがいるけれど、彼女はずっと下を向いたままだ。話に耳を傾けているのか、いないのか分からない。

 現実的な話ができるまで、シーの心は持ち直していないのだろう。


 彼女もまた、怪我を負っている。


 心の怪我は、そう簡単には治らない。

 けれども、僕は何もしてやれない。してやれることなんて何もない。彼女自身で解決するしかないんだ。心の整理をつけるしかない。下を向いたままでは何も変えられないのだから。


「もしか、したらなのですが・・・・・」


 ここで、もう一人の女性―ミドレスさんが声を上げた。

 僕は初対面だけれど、キメラが潜む地点の監視をしていた魔術師だと紹介された。足首まで隠れている濃い紫色の服を着ていて、手袋に、顔もべーる?で隠れている。

 体の輪郭や仕草で女性だと解るけれど、一切肌を露出していない服に身を包んでいた。


「医聖、に頼られては、いかがでしょうか?」


 医聖? 誰だろうか? 高名なお医者さん?


「彼、ですか。腕は確かだと聞きますが、簡単に会てくれるでしょうか・・・・?」


 さぁくすさんが顎に手を当てて唸る。

 気難しい人なのだろうか。医師なのに?


「名医であることは間違えないようだが。教会からの救援を拒んだと聞いたことがある」


「人となりを議論している暇はないのでは?」


 確かに。どんな人であれ、名医と噂されているなら彼に会いに行ってみてもいいと思う。けれど、カータさんたちの現状を考えると、長距離の移動は控えるべきだとも思う。そして、なにより、拒まれた場合を考えなければ。


「その人」


 ぽつりとシーがつぶやいた。僕だけではなく、しゃるねすさんもその言葉にシーを見る。


「その人。すごいお医者さん、なんですよね・・・・・・?」


 今度は、はっきりと。

 顔を上げて、全員を見渡す。


 彼女の眼には、覚悟が宿っていた。


「私、お願いします。お父さんを、カータを助けてくれるように。だから、その、名医さんの所に行かせてください。お願いします」


 椅子から立ち上がり、シーは頭を下げた。


 この中で、一番年下で、一番守られていた彼女が、一番に初めに覚悟を決めた。何があっても、諦めない覚悟を。何があっても、助けるための覚悟を。


 眩しいな。

 人は、こんなにも、人とはーーー


「そうね。行きましょう。私も、私にできる限りの誠意を見せるわ」


 しゃるねすさんが同意の声を上げる。みなさんも一様に、覚悟を決めた顔つきで頷いた。



次の展開に移行していきます。

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