ドワーフと酒
久しぶりの投稿です。そろそろ、次の展開に行くと思いますので長い目で見てください。
カータさんたちを追って森に行こうかと考えながらも、宿への道を歩いていたら。
「おう。付き合え」
低いところから声をかけられた。
すぐ下を向くと、そこには―――
「ぶろっとるさん。どうかしましたか?」
相変わらず無愛想なドワーフのぶろっとるさんがいた。髪と髭の境目が分からないぐらい顔は毛でおおわれているが、除いている眼光の鋭さと引き結ばれた口元を見る限りにおいては、彼の機嫌はあまりよくないらしい。
「来い」
一言言われて、先に歩き出してしまった。僕は、その後に続く。
無言の道のり。
何か話しかけた方がいいのかと考えながら歩いていると、着いた先は、ぶろっとるさんのお店。
・・・僕、何かしたかな?
「ほれ。飲むぞ」
「え?」
いきなり?
目の前にお酒の入った樽を置かれた。ぶろっとるさんの身長よりも頭二つは高く、また横幅もある樽を軽々と運んできた。力があるんだなと唖然と思っていると、お椀を渡される。
どうやら、樽から直接お酒をすくって飲むようだ。
これが一般的なのか、それともぶろっとるさん家の独自のものなのか分からない。
「どうしたんですか?」
僕は、唖然としながら聞いてみる。
「何かないと飲まねーのか。お前は」
「そんなこと、ないですけど・・・」
ぶろっとるさんはすでに、並々とお酒をすくって飲み始めている。
辺に遠慮をしたら失礼かと思い、僕もいただきますと断ってからお酒をすくう。元の世界でも、こんな飲み方したことがない。
あ。意外と美味しい。
「金はいらねーよ」
そうだろう。これでお金を取られたらたまらない。しかも、お酒を飲んだ後で付け加えられても・・・・。
それに、僕はまだ剣の代金だって払っていない。
ギルドのちょっとした依頼や、でるすさんからの心づもりの賃金をもらっているけれど、それだけじゃ払いきれない。
それだけ、値打ちがある剣だ。
「お前、今日どうしてあいつらと行かなかった?」
相変わらず、唐突に話を始める人だ。
まぁ、前置きがない分話しやすくはあるけれど。
「それは。僕の腕がまだ未熟なので」
「それだけか?ほかに何か聞いてねーのか?」
「聞くって何をですか?」
おかしなことを言われるなぁ。
話をしながらでも、ぶろっとるさんの手は止まらない。そんな飲み方して、体に悪くないのだろうか?
「お前。何か隠してるだろ。それをあいつらに話したか?」
「・・・・隠すって。そんなたいそうなことは隠してませんよ」
ぶろっとるさんは、意外と鋭い人なんだな。
一回しか合っていないのに、どうして僕が隠し事してるってわかるんだろ?
「何か隠し事があるってことでいいんだな?」
はぐらかしても意味がない雰囲気だな。
この人は、きっと直球で聞いてくるから他の人にも信頼されるのだろう。僕は、お酒を一口飲んでぶろっとるさんに応える。
「ええ。まぁ。でも、他の人だって持ってるじゃないですか」
「そりゃそうだ。けれど、あいつらを信用してるんなら、ちゃんと話せ。話せばきっと力になってくれる」
ぶろっとるさんは数杯で酔ったのか、無愛想は変わらず僕へと饒舌に話してくる。いや、もしかしたら僕と会う前に、すでに飲んでいたのかもしれない。
でも、酔っ払いだとしても、ぶろっとるさんの言葉には僕に対する気遣いが伝わってくる。
この人は、優しい人だな。
けれど、彼に何かを強制される覚えはない。
いい剣を売ってくれたことは感謝している、代金も後払いでいいと言われたことも助かった。けれども、それだけだ。踏み込まれる覚えはない。
「そう、ですね。心の整理がついたら、話します」
真剣に聞こえるように、少し塞ぎ気味にしゃべる。
「おう。そうしろ」
僕の答えに満足したのか、ぶろっとるさんは鷹揚に頷いた。彼は、本当にいい人だな。周りからの信頼が厚いのは何もいい武器を作るからだけじゃない。彼の人柄を信頼してるんだろう。
それから、二時間ぶろっとるさんに付き合って飲んだ。
日はとっくに沈んで、夜の帳が降り、家々では明かりが灯り家族の時間が過ぎていく。僕はぶろっとるさんの話に相槌を打ちながら飲んでいた。顔色は普通なのに、やっぱり会う前に相当飲んでいるのか、ずっとしゃべり続けている。
そんな時間が三時間過ぎた頃、ぶろっとるさんのお店の扉を殴打する音が響いた。
あまりの音に、お酒を飲んで穏やかだった顔を無愛想にもどして、ぶろっとるさんが席を立って扉を開ける。そこには―――
「おじいちゃん!【木漏れ日の一滴】もってたよね!私に売ってくれない!?」
そこには、ギルドで顔を合わせたことがあるギルドの受付嬢・ニニナさんがいた。
おじいちゃん?ぶろっとるさんが? 本日二度目の唖然。
「ああ。あるが。どうした。何がった?」
「ごめん!急いでるの、事情は後で! 直ぐにいるのよ!!」
でも、いつものニニナさんじゃない。切迫した雰囲気に、何より汗を流し涙を流していた。あまりにも取り乱した姿にぶろっとるさんも異常を察知している。けれども、話も聞かずに渡せる物じゃゃないようだ。
どうにかして落ち着かせようとしているけれど、ニニナさんが効く耳を持ってくれない。取り合えず、すぐに必要で、持っていかないと危ないといった内容だけど。誰に必要で、危ないのだろう。
「ニニナさん。こんばんは。お水をどうぞ」
話が平行線で進まないのを見とがめて、僕はそっとニニナさんに近づき、勝手に拝借した椀を渡す。水は半分しか入れていない。たぶん、今の彼女ではまともに持てないだろうと思って水は少な目にした。
僕が声をかけたことで、ようやく僕もいたことを認識したらしい。
驚いたように目を見開いて、息をのんでいる。
「あ、あなた、」
「はい。どうぞ。とりあえず一口だけでも」
そういって強引に握らせて、口元にもっていかせる。戸惑いながらも、ニニナさんは水を一気に飲み干した。ここでようやく、一息ついてくれる。
自分が取り乱していたことを、やっとわかった様子だった。
「ごめんなさい。いきなり。でも、時間がないの。話は行きながらでいいかしら」
「行くって。どこへだ?」
「教会よ。おじいちゃんも一緒に。あなたは絶対」
「僕ですか?」
「そう。お願いおじいちゃん。命がかかってるの」




