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友情の在り方

 今日も剣の稽古をつけてもらった。以前よりもだいぶ剣を振るえるようになった。まだまだ、カータさんの合格はもらえないけど。型はさまになってきたと言われた。嬉しい。


 刀とは違うけど。きっと大丈夫だろう。


 でも、そろそろキメラの件で動くことになると言っていたから、もしかしたらしばらく稽古はつけてもらえないかもしれない。そのときは、一人で振ってみようかな。


「よう」


「!こんにちは」


 考え事をして仕事をしていると、不意に声を掛けられ驚く。振り向くとそこには、ふぁふなーさんが居た。

 でも今はでるすさんのところで、昼の定食をだしている時間。ふぁふなーさんとは、夜の酒場でしか逢わないのに。珍しくて少し対応が遅れた。


「めずらしいですね」


 でるすさんも顔を出して挨拶をしている。本当に珍しい。何かあったのだろうか?


「いや。何にもねーだんけど。昼間の飯も食ってみようと思ってな。おすすめは?」


「昨日も食べてもらったお魚です」


「うん、じゃそれ」


 なんだか、心ここに非ずって感じだけど。でも、メアリーさんのいい練習になるかも。今日分かったことだけど、メアリーさん料理ができる。

 配膳は壊滅的(転んで料理を駄目にする)だけど、もしかしたらでるすさんの片腕になれるかもしれない。

 そうしたら、また人を入れないといけないな・・・。


「あ。私もそっち手伝いますね」


「え? はい。お願いします」


 う~ん。転ばないといいけれど。

 そう願っていたけど、やっぱり転んでいる。けれど、昨日よりも転ぶ回数は減っているような気がする。たぶん。


「メアリーちゃん。大丈夫か?」


「はい」


 ふぁふなーさんも引いている。そうだよね。ちょっと、病気かもしれないと思うほどよく転ぶ。本人はどんくさいと言っているけれど。どうだろうか?


「クウキ。この後、時間あるか?」


 ふぁふなーさんからそう声をかけてくる。いつも、僕が勝手に着いて行くか、話相手になってもらっているようなものなのに。


「はい。大丈夫ですよ」


「なら、ちょっと付き合ってもらってもいいか?」


 真剣な顔をしてそんなことを言ってくるものだから、僕も緊張しながら了承の返事を返す。なんだろ?



 昼の仕事が終わり、休憩と夜の酒屋の下準備を始める空き時間。僕は、でるすさんに断りを入れてふぁふなーさんと店の外へ出る。

 適当な店に入って、遅めの昼食を頂く。


「お前昨日どこにいた?」


「昨日ですか。どうしてです?」


 そういえば、昨日ふぁふなーさんと仕事が終わった後、少ししゃべったっけ。


「いやー。悪いと思ったんだけど、お前の後をつけてたんだ」


「・・・・」


「いや。変な意味じゃないぜ。ただ、気になって、さ」


「そうですか」


 困ったなぁ。

 何処まで着いて来てたんだろ。他人が居ないかは常に気を配ってたんだけどなぁ。気付かなかった。初めて会った時もそうだけど、どうも、気配が読みずらい人だ。


「それで。どこに居たんだ?どこへ、行ったんだ?」


「まぁ。ちょっと・・・・・」


 う~ん。どう言えばいいんだろう。

 でも、今の質問だと、最後まで着いて来てなかったみたいだ。誤魔化せないこともないなぁ。


 僕は何といようか迷いながら昼食を食べる。ふぁふなーさんもそれに付き合って、しばらくは僕の好きなようにさせてくれた。


「俺の名前さ」


 でも何時までも僕がどう話すか躊躇していたら、ふぁふなーさんがやれやれと言って口を開く。


「あれ。偽名なんだよな」


「・・・そうですか」


 どうしたんだろ、突然。

 まぁ、そうかなって気はしてたけど。訳ありの旅人なら当然の事だろ。

 僕にも身に覚えがある。けれど、どうしてこの場で話し出したんだろうか?


「責めないのか。うそつきっとかさ」


 苦笑いしながら聞かれた。

 今日のふぁふなーさんはちょっと変だな。なんか、遠慮をしているように感じる。今まで変な話しかしてこなかったから、真剣な話になると気まずく思うのかもしれない。


「必要なことだったんじゃないんですか?偽名を言うのが。なら、責めることはないですよ」


「ありがとう」


「いいえ」


 また沈黙が続く。僕としては、話してもいいものかどうか葛藤しながら、ふぁふなーさんの反応を見る。頼んだ料理は、すべて完食していて食後のお茶を飲んでいる。味としては、まあまあだった。肉料理を頼まなかければ、意外と美味しい料理もあるようだ。


 今この瞬間、時間がやけにゆっくりと感じる。

 彼になら話しても大丈夫だろう。

 けれど――・・・


「はぁー。俺の本当の名前はヴァレンティノール」


「・・・言っていいんですか?」


 彼の言葉で顔を上げる。

 少し困ったような表情をしていたけれど、それだけ。僕に対する苛立ちはなかった。


「お前だからな」


 穏やかに言われるた

 黒髪、黒目、全身上下を黒色で統一している。僕にとっては馴染深い色を纏っている彼。


「ありがとうございます」


「言いたくないこと言ったんだから、お前も言えよ」


 交換条件。

 いや、ただ僕に気を遣って名前を言ってくれたんだろう。純粋に彼の優しさだ。


「・・・・・昨日の人間を探してたんです」


 だから、僕も答える。言い訳も、嘘もつかずにありのままを。

 きっと軽蔑されるだろう。


「なんで?」


「それは。もう、来てもらいたくなかったので」


「それで?どうしたんだ」


「もう二度と来れないですよ」


 ここまで言えば分かるだろう。

 聡い人だから。僕が何をしたのか汲み取ってくれた。キメラの一件もあるしね。分からないはずがない。


「ほっとけばよかったんだ。あんなやつ」


「そうですね。でも、また来られるのも・・・迷惑なんで」


「目障りなんでってか」


 伏せた言葉を言われた。

 そう。目障り。あんな人間。目障りだ。


「う~ん」


 腕を組んでうなりだした。ど、どうしたんだろ。


「あのな~。クウキ。ここでは危険な奴ってーのは、危険ってだけで牢にぶち込まれる。何にもしてなくてもだ。ただ「危ない奴」って認識されただけで生きずらくなる。わかるか?そういったことを積極的にやることは、自分の首を絞めるだけだ。だから、適当に痛めつけて、放置すればいいんだよ。また、来たときはまた来た時だ」


 青鬼の言葉と被った。

 昔同じようなことを言われた。お前は無差別じゃない分いいけれど、区別をつけすぎるって。


 区別をつけて、差別をつけて。受け入れられない人間を排除しようとする。それは、危険なんだと。


「・・・・・・・・・そう、ですね」


「納得できなくても、まぁ、注意として聞いとけ」


「はい」


 納得できないわけではない。分かっている。きちんと理解しているけれど。けれど、目の前にそんなニンゲンが居ること自体が・・・・・・。


 僕は自然と眉根に皺が寄るのがわかった。でも、我慢する。

 そんな僕を見て、彼の苦笑いが柔らかくなった。どうして、そんな優しそうに笑うんだろう?


「なぁ、人が嫌いか?」


「いいえ」


「好きか?」


 その言葉に、一瞬だけ詰まる。その一瞬の間に浮かんだのは、村人の素朴な笑顔。

 僕ただ、首を横に振った。







最近話が進みません。。。

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