友情の在り方
今日も剣の稽古をつけてもらった。以前よりもだいぶ剣を振るえるようになった。まだまだ、カータさんの合格はもらえないけど。型はさまになってきたと言われた。嬉しい。
刀とは違うけど。きっと大丈夫だろう。
でも、そろそろキメラの件で動くことになると言っていたから、もしかしたらしばらく稽古はつけてもらえないかもしれない。そのときは、一人で振ってみようかな。
「よう」
「!こんにちは」
考え事をして仕事をしていると、不意に声を掛けられ驚く。振り向くとそこには、ふぁふなーさんが居た。
でも今はでるすさんのところで、昼の定食をだしている時間。ふぁふなーさんとは、夜の酒場でしか逢わないのに。珍しくて少し対応が遅れた。
「めずらしいですね」
でるすさんも顔を出して挨拶をしている。本当に珍しい。何かあったのだろうか?
「いや。何にもねーだんけど。昼間の飯も食ってみようと思ってな。おすすめは?」
「昨日も食べてもらったお魚です」
「うん、じゃそれ」
なんだか、心ここに非ずって感じだけど。でも、メアリーさんのいい練習になるかも。今日分かったことだけど、メアリーさん料理ができる。
配膳は壊滅的(転んで料理を駄目にする)だけど、もしかしたらでるすさんの片腕になれるかもしれない。
そうしたら、また人を入れないといけないな・・・。
「あ。私もそっち手伝いますね」
「え? はい。お願いします」
う~ん。転ばないといいけれど。
そう願っていたけど、やっぱり転んでいる。けれど、昨日よりも転ぶ回数は減っているような気がする。たぶん。
「メアリーちゃん。大丈夫か?」
「はい」
ふぁふなーさんも引いている。そうだよね。ちょっと、病気かもしれないと思うほどよく転ぶ。本人はどんくさいと言っているけれど。どうだろうか?
「クウキ。この後、時間あるか?」
ふぁふなーさんからそう声をかけてくる。いつも、僕が勝手に着いて行くか、話相手になってもらっているようなものなのに。
「はい。大丈夫ですよ」
「なら、ちょっと付き合ってもらってもいいか?」
真剣な顔をしてそんなことを言ってくるものだから、僕も緊張しながら了承の返事を返す。なんだろ?
◆
昼の仕事が終わり、休憩と夜の酒屋の下準備を始める空き時間。僕は、でるすさんに断りを入れてふぁふなーさんと店の外へ出る。
適当な店に入って、遅めの昼食を頂く。
「お前昨日どこにいた?」
「昨日ですか。どうしてです?」
そういえば、昨日ふぁふなーさんと仕事が終わった後、少ししゃべったっけ。
「いやー。悪いと思ったんだけど、お前の後をつけてたんだ」
「・・・・」
「いや。変な意味じゃないぜ。ただ、気になって、さ」
「そうですか」
困ったなぁ。
何処まで着いて来てたんだろ。他人が居ないかは常に気を配ってたんだけどなぁ。気付かなかった。初めて会った時もそうだけど、どうも、気配が読みずらい人だ。
「それで。どこに居たんだ?どこへ、行ったんだ?」
「まぁ。ちょっと・・・・・」
う~ん。どう言えばいいんだろう。
でも、今の質問だと、最後まで着いて来てなかったみたいだ。誤魔化せないこともないなぁ。
僕は何といようか迷いながら昼食を食べる。ふぁふなーさんもそれに付き合って、しばらくは僕の好きなようにさせてくれた。
「俺の名前さ」
でも何時までも僕がどう話すか躊躇していたら、ふぁふなーさんがやれやれと言って口を開く。
「あれ。偽名なんだよな」
「・・・そうですか」
どうしたんだろ、突然。
まぁ、そうかなって気はしてたけど。訳ありの旅人なら当然の事だろ。
僕にも身に覚えがある。けれど、どうしてこの場で話し出したんだろうか?
「責めないのか。うそつきっとかさ」
苦笑いしながら聞かれた。
今日のふぁふなーさんはちょっと変だな。なんか、遠慮をしているように感じる。今まで変な話しかしてこなかったから、真剣な話になると気まずく思うのかもしれない。
「必要なことだったんじゃないんですか?偽名を言うのが。なら、責めることはないですよ」
「ありがとう」
「いいえ」
また沈黙が続く。僕としては、話してもいいものかどうか葛藤しながら、ふぁふなーさんの反応を見る。頼んだ料理は、すべて完食していて食後のお茶を飲んでいる。味としては、まあまあだった。肉料理を頼まなかければ、意外と美味しい料理もあるようだ。
今この瞬間、時間がやけにゆっくりと感じる。
彼になら話しても大丈夫だろう。
けれど――・・・
「はぁー。俺の本当の名前はヴァレンティノール」
「・・・言っていいんですか?」
彼の言葉で顔を上げる。
少し困ったような表情をしていたけれど、それだけ。僕に対する苛立ちはなかった。
「お前だからな」
穏やかに言われるた
黒髪、黒目、全身上下を黒色で統一している。僕にとっては馴染深い色を纏っている彼。
「ありがとうございます」
「言いたくないこと言ったんだから、お前も言えよ」
交換条件。
いや、ただ僕に気を遣って名前を言ってくれたんだろう。純粋に彼の優しさだ。
「・・・・・昨日の人間を探してたんです」
だから、僕も答える。言い訳も、嘘もつかずにありのままを。
きっと軽蔑されるだろう。
「なんで?」
「それは。もう、来てもらいたくなかったので」
「それで?どうしたんだ」
「もう二度と来れないですよ」
ここまで言えば分かるだろう。
聡い人だから。僕が何をしたのか汲み取ってくれた。キメラの一件もあるしね。分からないはずがない。
「ほっとけばよかったんだ。あんなやつ」
「そうですね。でも、また来られるのも・・・迷惑なんで」
「目障りなんでってか」
伏せた言葉を言われた。
そう。目障り。あんな人間。目障りだ。
「う~ん」
腕を組んでうなりだした。ど、どうしたんだろ。
「あのな~。クウキ。ここでは危険な奴ってーのは、危険ってだけで牢にぶち込まれる。何にもしてなくてもだ。ただ「危ない奴」って認識されただけで生きずらくなる。わかるか?そういったことを積極的にやることは、自分の首を絞めるだけだ。だから、適当に痛めつけて、放置すればいいんだよ。また、来たときはまた来た時だ」
青鬼の言葉と被った。
昔同じようなことを言われた。お前は無差別じゃない分いいけれど、区別をつけすぎるって。
区別をつけて、差別をつけて。受け入れられない人間を排除しようとする。それは、危険なんだと。
「・・・・・・・・・そう、ですね」
「納得できなくても、まぁ、注意として聞いとけ」
「はい」
納得できないわけではない。分かっている。きちんと理解しているけれど。けれど、目の前にそんなニンゲンが居ること自体が・・・・・・。
僕は自然と眉根に皺が寄るのがわかった。でも、我慢する。
そんな僕を見て、彼の苦笑いが柔らかくなった。どうして、そんな優しそうに笑うんだろう?
「なぁ、人が嫌いか?」
「いいえ」
「好きか?」
その言葉に、一瞬だけ詰まる。その一瞬の間に浮かんだのは、村人の素朴な笑顔。
僕ただ、首を横に振った。
最近話が進みません。。。




