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酒場での一騒動②

黒い兄さんの出番!

 二人の後をつけるために店を出たけど、時間はまだ宵の口。まだまだ多くの人々が大通りを歩いている。仕事終わりの男たちにすでに飲んでいるのか酔っ払い、威勢のいい客引きに艶やかな女性たち、店から漏れる明るい光。

 雑多な夜の街。

 怪しまれないよう、二人を見失わないように付いて行くのにはうってつけだ。


「っと」


 しばらく大通りを進み、二人は人通りが少ない裏道へ行ってしまう。うーん。誘い込まれるっか。

 まぁ、いいや。


 裏道を進むと、少し開けた場所に着いた。周りは薄暗い。家から漏れる光も弱弱しく、ここでもめ事がいくら起ころうとも、もう大通りには届かない。

 まさしく誘い込まれた。


 二人は互いに、一定の距離を開けて向かい合う。


「おい。さっきの言葉、取り消すつもりはあるか?」


「ねーよ」


「・・・そうか。余裕だな。黒いにいちゃん」


 赤ら顔だった男の顔には、すでに酔いはなく明確な殺意があるだけ。

 対峙しているのは黒色の彼。闇の中にあっても、その姿ははっきりと分かる。夜の暗闇に溶け込むことなく、存在感を放っていた。


「ああ。あんた相手に負ける気がしねー」


 そう言って、不敵に笑っている。

 そんな不遜な態度を見て、男は歯をむき出し凶暴な笑みを見せた。


「はぁ?負ける?何言ってんだ?にいちゃん、俺はあんたを殺す。勝負じゃねーよ。何勘違いしてんだ」


「・・・殺しに勝ち負けはないってか」


「あるわけねーだろ。生きるか死ぬってときに、そんなくだらねーもん気にする奴いねーよ」


「くく。確かに」


 二人の間に会話が止んだ。

 どちらとも無手。獲物はない。でも、武器の有無は関係ない。素手でも人一人を殺すことはできる。


 さて。ここまで着いてきちゃったけど、見なくても勝負、じゃなくて、殺し合いの行く末は見えている。どうしようかな。このまま戻っても、二人になんて説明すればいいんだろう。

 あ、そうだ。あの串肉屋さん居ないかな。ここら辺の路地だったよな、確か。お土産に買って帰ろうかな。いや、お土産は変か。


「おい。助ける気はゼロかよ」


「あ、お疲れ様です」


 どうやら、悩んでいる間に終わったらしい。

 激しい音は聞こえなかったけれど、鈍い音は幾度となく響いていた。まぁ、死ではいないことは後ろから聞こえる呻き声からわかる。

 手ひどくやられて、気絶も許されなかったらしい。


「や。その挨拶はどーよ」


 そう苦笑いされた。


「変ですか?」


「変じゃねーが。・・・・・いいや」


 言いたいことを飲み込み、肩をすくめられた。

 なんか疲れているようだ。そんなに手練れでもなかったのに、どうしたんだろ?僕は、不思議に思いながら話を切り出す。


「昨日お店に来なかったですけど、どうしたんですか?」


「ああ。ちょっと、小金稼ぎしてた。旅の金稼ぐのにこの街に来たから。そろそろ、働かねーとっと思ってさ」


 僕たちは連れだって、ゆっくりと大通りの方へと歩きだす。

 後ろの男は一人でどうにかするだろう。もしくは、人攫いに攫われるかもしれないが、男自身がここへと来たんだ。責任は彼にある。


「そうだったんですね。今日、お店に来ますか?」


「おう。つうか、行ったらあの状態でよー。いやー。かわいい子じゃねーか。いつの間に雇ったんだ?」


「昨日の夜です」


「それで今日かい。先が思いやられるな」


「ですね」


 本当に。やっぱり夜の酒屋はメアリーさんには早いかな?

 大通りの光と騒音が少しずつ近づいて来た。串肉屋さんの姿も探したけど、どうやらここら辺には来てないようだ。


「あの男のことは聞かねーのな」


「あ!そうでしたね。変態はどうなりました?」


 すっかり忘れてた。

 ボコボコにしたことは分かったけれど、僕は直接見ていない。興味はあったけれど、出歯亀は良くないかなと思って、後ろを向いて座り込んでいた。

 だから質問したけど、次の瞬間――


「ぶっ」


 ――盛大に噴出された。肩も震え、終いには蹲って苦しそうに声を上げて笑い出された。

 僕はどうしていいかわからず、笑いが収まるのを大人しく待つ。何か可笑しなことでもいっただろうか?


「どうしました?」


 笑いも収まったところに声をかける。まだ、ひーひー言っていたけど、僕は面白くないので、ちょっとぶっきら棒になってしまった。


「いや。ストレートすぎるだろっ」


 そういって、笑いを必死にかみ殺している。すとれーと?


「てかよー。俺が出ていかなかったら、お前どうしてた?」


 涙を拭いてようやく立ち上がってくれた。


「え?そうですねー」


 どうしてただろ?

 まぁ。たぶん。穏便には済まなかっただろうな。


「お前、あの場であいつ殺してただろ」


 苦笑い。いや、本当に苦く表情を歪めて僕の正面に回り込んで来る。

 両腕を組んで、真剣な顔をして僕の対面に来る。


「大勢の前でそういうことしない方がいいぜ。まぁ、場合によるけどさ。自分の評価を落とすことしなくてもいいじゃん。ましてや、あんな男相手にさ」


 僕は彼の真剣な顔に、どんな顔を向ければいいかわからず、つい目を逸らしてしまう。


「そう、ですね」


 だから、(にが)い返事しか出来ない。

 分かっているんだ。ああいう時、どんな事をしてはいけない(・・・・・・・)のか。分かっているんだけど・・・。


「クウキ。人は嫌いか?」


 その言葉を聞いて目を合わせる。

 一呼吸分空けて、僕はゆっくりと答えた。


「いいえ」


「ふ~ん」


 何か納得することでもあったのか数回頷く。どういった意味があるのか、僕には分からないけれど。彼の中で、僕に関することが何か一つ決まったのかもしれない。


「まぁ。いいけどさ。店、行くんだろ?」


 止まっていた足を再び動かす。

 大通りは近い。僕も普段通りの対応をする。


「ええ。今日のお勧めは魚です」


「魚?内陸のここで珍しいな。川魚か?」


「いいえ。海で取れたものだって、でるすさんは言ってました」


「お。それは期待大だな」



 時間は少し遡る。俺が、レッド・ファンキーに入ったすぐのことだ。


 ひやっとした。入ったときは珍しく揉め事になっていると思ったが、クウキの態度が急激に変わってとっさに割って入ってしまった。


 いつもへらへら笑って、ゆるい奴なのに。


 まるでスイッチが入ったみたいに、変化した。

 酒場で揉め事は少なくない。いや、多いほうだろう。でも、クウキの対応がいいのかそこまで大事には今までならなかった。

 それが、少女が一人入ってきただけで男どもがつけあがるのか、それともクウキの纏う雰囲気が今までそういった客を沈めていたのか。

 どちらかわからないが、繁盛している酒屋にしては何時も平穏に過ごせる店だった。


 ここで、一つクウキに対する考察。


 あいつは、人を信じてない。

 態度で分かる。一般人にもなんとなくわかるんだろう。だから無関心の相手に怒ることも、文句を言うこともない。反発は、相手の人格を認めているから反発をするのだ。

 そういう人間を幾人も見てきた。好き好んで他人を蹴落とす奴もいたが、それは、蹴落とす奴を選んでいるからだ。


 クウキはその人物選択の枠に入らない。

 なぜなら、何もしないからだ。無害な奴をわざわざ蹴落としたり、ましてや反発して怒鳴ったり手を上げたりしない。


 店長のディルスに関して言えば、クウキは多少なりとも心を開いているようだけど。


 でもそれだって、もしディルスが剣を持ってクウキを襲ったとして。クウキは躊躇なくディルスを斬り殺すだろう。

 そして、何事もなかったように日常に戻るんだろうなぁ。

 あいつは、怖くて恐ろしい奴だ。


 だから、喧嘩を買って出てよかった。そうでなかったら、あの酒場で無残な死体が出来あがっていたことだろう。


 それに、良いことをすると少くなくない、サービスをしてもらえるしな。





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